第5話慣れなのか…次第に絆される感情

ルーク様とのお茶会?(ルーク様はお茶ではなく、お酒だが)は思いの外楽しかった。

まさに、時間がたつのも忘れるほどに。

私は、きっと初出勤で気が張って疲れてもいたんだろう。

次第に眠気に勝てなくなっていった。

駄目だ、部屋に帰らないと……いけない。

いけないのに、私の瞼は段々と抗えないほどに重くなっていく。ソファが気持ちいいのも悪いと思う。

何て、心の中で罪なきソファに文句を言っていると、意識は完全に眠りの淵へと追いやられた。

完全に落ちる瞬間、体が中に浮いた様な気がしたがきっと気のせいだろう。


◇◇◇


目の前でリンがうとうとし始めたのは、勿論気付いていた。

気付いていたけど、「部屋に戻る?」の声は掛けなかった。確信犯と後で罵られてもしょうがないが、出来れば今日は自分の部屋で眠りにつきたかった。でも、隣にはリンもいて欲しかったから、お茶を俺の部屋で飲もうと促した。…それも安眠に効果のあるハーブティをわざわざ選んで、飲ませた。


効果は見ての通り。

大成功だ。…俺は役得とばかりに、用意させたネグリジェにリンを着替えさせた。


きっと、勘の良いアンなら誰に着せる為の物か解った筈だ。それでも俺の望むまま用意してくれたのだから、彼女は昔も今も俺の味方なのだと安堵に似た気持ちが浮かんでくる。


全体的に、細すぎるリンの体を丁寧に暖かいタオルでふいて、着替えさせた。

胸はまだ発展途上。…大きくなる要素は有りそうだが、多分栄養が足りてない。


「もっと食べさせて肥らせないと……」


本人に意識が無いのを良いことに好き勝手本音が出てくる。

もっと本音を言えば、彼女の意志の強い瞳は閉じていて欲しくない。

何時だって真っ直ぐな彼女の瞳に自分を写して欲しいと思うのは勝手過ぎると……解っている。

綺麗な肌。…手は働き者の好感を持てる手。

どれも彼女に似合っている。

そんな彼女が俺のベットに横になっているのを見ると……堪らなくなる。

善からぬ感情を押し殺す様に、彼女の隣で、彼女を抱き締めると、途端に眠気が襲ってきた。…効果覿面だ。


ああ、今日も眠る事が出来る。

それがどれ程、得難い幸福なのか味わった事が無い奴にはきっと解らないだろう。

眠る事が出来るのは、当然何かじゃない。俺は身をもってその事を味わった。

だから、手放す訳にはいかない。例え卑怯と罵られても……。

彼女の寝顔に安堵し、自分の体が心地好く……意識が沈んで行きながら、俺は幸福な普通を堪能した。


◇◇◇


何だろう?……一言で言えばデジャブ?

経験した事が有るように心がこの事を覚えている。


私は窓からの朝日に起こされながら、見慣れぬ天井に、初めは思考が着いていかなかった。

何故に私は、ここ(ルーク様の部屋)で寝てるのか!?…答えてくれそうな相手ルーク様は爆睡中で起きる気配さえない。


「どうしよう……」


いや、自分の部屋に帰れば良いのだろうが、隠し通路は薄気味悪いから使いたくないし、でも表から出たところを他の人に見つかるのも勘弁して頂きたいところだ。

要らない邪推は、身を滅ぼす。

目立たず、長くが、私の処世術なのだ。


私が心の中で葛藤していると、部屋の扉が開いた。

ビクッとした私とは裏腹に、

入室してきた相手は私がルーク様のベットにいても驚く事さえなかった。


……もしかしなくても、知っていたのか!?…


「リン…ルーク様の我が儘に付き合って貰って御免なさいね。…注意はしたのだけれど、きかなくて」


「アンさん……」


ベットに近付いてきたアンさんが驚いた表情を見せた。私が横にいる事意外に驚く事何て有るのだろうか?……と私は思ったが、アンさんから直ぐに驚いた内容を聞かされて複雑な感情になった。


「……人の気配に敏感なルーク様が、私がこんなに近付いてもまだ目を覚まさない何て……リンさん効果は絶大なのね」


「えっ?……何時も憎たらしい位良く寝てますよね!?」


私の前では、私が起きる時間でも爆睡してくれやがるから、憎らしくなる程なのに?


「……私を含め、誰一人寝顔を拝見した者はいなかったわ。…気絶している姿を見た者はいるけれど……」


「気絶………」


何か過激な言葉が聞こえて来たんですけど!?

……うん、聞かなかった事にしよう。

私は身の保身に入る事にした。


「……お役に立てたなら良かったです……」



◇◇◇


アンさんの計らいで、誰にも見付からずに部屋から脱出する事に成功した。


この日はルーク様視察が有るとかで出掛けるとアンさんから聞いた。

帰るのは三日後。

良かった、少なくとも3日間は平穏な暮らしが出来そうだ。

この時の私は、何て呑気なお馬鹿さんだったのだろう?

愚かだと思い知らされたのは、これから3時間後の事だった。

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