第4話意外に楽しい!?…使用人生活満喫
私の部屋(屋根裏部屋)でお茶を飲むのだと思ったら、何とルーク様の部屋に行くことになってしまった。
「………移動するの面倒くさく無いですか?」
おおっと、つい本音が駄々漏れになってしまった。
「うーん、そうなんだけどね。…お茶とお茶菓子をここまで(階段を登って屋根裏部屋迄)運んで、また戻すなら、俺の部屋の方が楽かなって思ってね」
まあ、それもそうかとあっさり納得してしまう、簡単な自分が悲しいが、体ひとつで階段を上り下りするのと、物を上げ下げするのとでは大変さが違う。…ルーク様が使う食器なんて割ったりでもしたら、首が飛んでしまうかもしれない位には良いもを使用しているだろう。
私は、ルーク様の後について秘密の通路を下り部屋に行くことにした。
「それにしても、秘密の通路を私なんかが通って良いんですか?」
きっと、いざと言う時の避難通路も兼ねて作られた物だろうに。
「リンなら良いよ。寧ろ覚えていて欲しい。実際に数名は知っている人間もいるしね。…まあ、誰かに言ったらお仕置きだけどね」
………お仕置き?
「………知りたくなかった……」
「リンはホントに正直だね。…でも、覚えておいて損は無いから覚えてね?……何なら、ここからなら何時でも俺の部屋迄来てくれて構わないよ?」
「絶対に行きません……」
何を言い出すのか、この主は!?
それでなくとも、この階段は暗くて足を踏み外しそうになると言うのに。
石を長方形の煉瓦状にカットし積み重ねて作られたこの螺旋階段は、寒々しく無機質だ。
勿論灯りなんてないから、ルーク様が持っているランプの灯りだけが頼りなのだ。
「………何か出そう…」
私がうっかりちゃっかり呟くと、ルーク様はその言葉を華麗に拾い上げた。
「………怖いなら、手を繋ごうか?」
わざわざ拾わなくても良いものを。とは言わないが。
「結構です。…怖くは有りませんから。…生きている人間の方がよっぽど怖いわ」
「やっぱり、リンは変わっているね」
「………変わり者で申し訳御座いませんでした!!」
「誉めてるんだよ」
「ルーク様、変わっている、は誉め言葉じゃないです」
私が睨んでも、この暗闇じゃどうせ解りっこないだろう。
そう腹をくくって、ここぞとばかりに変顔をして見せた。あっかんべー、見たいな。
「リンはどんな顔も似合ってるよね」
「!!!!!」
見えてたのか!?なら、言ってくれれば良いものを!!…一人恥ずかしい思いをしてしまった出はないか。…と自分が悪いのに、心は悪態をついてしまう。
「誰かの真似でもなく、何者でもなく、リンはリンで唯一無二だ。…媚びる事もなく、偉ぶる事も、言い繕う事もない」
「ルーク様、私を貶してます?」
どう聞いても、悪口にしか聞こえない。
「うーん、俺言葉の使い方で失敗したこと無いんだけどなあ?」
「ああ、そーですか!!」
そんな事を言ってたから、前をちゃんと確認できて居なかった。
だから、ルーク様が立ち止まった事に気付けずに、ルーク様の背中に思いっきりおでこをぶつけてしまった。
「痛った!!……じゃなかった、申し訳ございません」
「大胆だね、リン」
「別に抱き付いた訳じゃ無いです」
「冗談は置いといて、怪我はしてない?」
「ルーク様にぶつかった位じゃ怪我なんてしません」
「それは良かった。…いいかい?リン。俺の部屋の扉は、竜のエンブレムが付いている。間違えるんじゃないよ?」
「間違えそうな扉が他にも有るんですか?」
その言い方をするって事は、そう言う事だよね?
「リンは賢いね。…でも、ただ覚えておいて欲しいだけだよ」
「意味が解りません」
ルーク様はただ笑うだけで、これ以上今は答えてくれそうもない。
この時は、ルーク様の言っている意味が解らなかった。…こんなに大切な事を教えてくれるなら、そうと言っておいて欲しかった……とはまだ先の話だ。
◇◇◇
部屋に入ると、美味しそうなお菓子の数々がテーブルに並べられていた。
クッション性の良いソファーは、座ると体を包んでくれる見たいにフィットする。
良いものをは違うなあ。と言うのが正直な感想だ。
ルーク様に促されるままソファーに座りお菓子を食べる。…紅茶でさえ、ルーク様が入れた程だ。
これで良いのだろうか?
だが、私が入れようとしたらやんわりと、でも絶対だ、という威圧感で断られてしまったのだからしょうがない。
「もう仕事は終わったのだから、ここから先は、リンは俺のお客様だよ」
何て言われたら、聞くしかないよね?
それにしても、旨い!
これは、旨い!!
「リンは美味しそうに食べるね」
「美味しい物を美味しく食べないなんて、食べ物と料理人への冒涜です!!」
これは私の持論だが。
「何でも食べさせたくなる」
目の前で椅子に肘をつきながら、自分はお酒しか飲んでいない。
「太るから止めてください」
「リンはもっと肥った方が良いよ、その方が俺の好みだ」
「ルーク様の好み何て知ったことでは有りませんが、肥ると服が入らなくなるから、困るんですよ。…買えないのに。…ルーク様の方がもっと食べた方が良いですよ、不健康そうだから」
「……そうだね」
何だろう?……何だか煮え切らない解答だ。
まあ、私がとやかく言う事でも無いんだけれど。
でも、少しは食べた方がいい。飲んでいるなら尚更だ。
でも、お菓子じゃ合わないかな。
そこで私は厨房のノールさんから余った食材を分けてもらい作った夜食を提供する事にした。
「……酒の肴に丁度いい食べ物が有りますから、どうぞ?…って言っても私が作ったんですが」
すると、黙って差し出した紙に来るんである物体をルーク様は黙って見た後、
「リンの手作り?」
と聞いてきた。
「鶏肉を薄く切り、ハーブと塩胡椒で味を整えた後蒸した物ですけど、意外といけますよ?」
ルーク様は、お行儀良く私が作った料理を黙って食べた。
「ホントだ。…美味しいね」
「でしょう?」
誉められて悪い気はしない。
「これ、俺が食べてしまって良いの?…リンの?…リンの夜食だったんじゃない?」
行儀のいいルーク様らしかなぬ、話していても食べるのを止めなかった。
それだけ気に入ってくれたのかと思うと、やはり………ちょっと嬉しい。
「構いませんよ。…私はお菓子をご馳走になっていますから。…お互い様です」
「お互い様か……」
「そうです、片一方通行じゃ無いんだから気にしない、気にしない、です」
ほっとした様な表情を見せて彼は笑った。
「じゃあ、これは俺が貰うね」
「またお菓子をくれるなら、今度また、何か作ってきますよ?」
「はは、お互い様だね」
「そうです」
「リンの料理は懐かしい感じがして、これなら食べられる。…有り難う」
思いがけず、本当に楽しい時間になってしまった。
今まで頑張ってきたご褒美、今神様がくれているんだろうか?
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