第3話メイドの仕事は大変です。
私の仕事は主に掃除、そして洗濯だ。
何せ新人でまだ右も左も解らないのだから、それも仕方がない。
だって、この屋敷はそれで無くともとても広いのだ。 真面目に迷子になる。
「さてっ……と、次の掃除場所はっと」
先輩に書いて貰ったメモを頼りに次の掃除場所を確認する。
「げっ!!」
つい本音が出てしまったのも無理はない。
「ふむ、次は俺の私室だね」
「っつ!」
危うく悲鳴を上げると同時に背後の人物をブラシの枝で殴るのを済んでのところで、我慢したのだから。
ルーク様がいつの間にか私の背後をとり、私のメモを読んでいたのだ。
「危ない!!」
「うん、もう少しでリンに撲殺されるところだったね」
のほほんとルーク様は答えた。
「ルーク様が背後を取るからです!死にたいんですか!?」
自慢じゃないが、私は腕っぷしには覚えがある。
「リンに殺されるなら本望かなあ。……まあ、リンはそんな事をしないと知ってるから心配してないけどねえ」
「今度からは絶対に急に後ろに立たないで下さい」
条件反射で止めを指してしまう。
「急じゃなかったら良いんだ?」
首を横に可愛く曲げる姿が似合っているところが憎たらしい。
くそ、美形は何をしても許されると思うなよ!!
「後ろに来るな!って言っても貴方様は立つでしょうが!!」
立場が弱いのだからしょうがないけれど。
何せ雇い主でご主人様だしね。
「そうだね」
こいつ認めやがった!!
もういい。無視だ無視。
黙って行こうとした私をまたもルーク様は呼び止めた。
「俺の部屋を掃除しに行くんでしょう?……まだ不馴れだろうから連れていってあげるよ」
「邪魔だから部屋にいないで下さい」
掃除にならない、邪魔以外の何者でもない。
「それじゃあ、リンを俺の部屋担当にした意味が無いじゃないか」
「!!!!!!…可笑しいとは思ったんです。まだ新人の私に一番重要な部屋を任せるなんて」
「一番重要な部屋は俺の部屋じゃ無いでしょう?」
「何言ってんですか!?…この屋敷で貴方以上に大切な者何て無いでしょう!?」
一瞬ルーク様は何故か驚いたような顔をした。私は間違ってはいない筈だ。
解せない。
「リンに取ってはそうなんだね。やっぱりリンにしてよかった」
「どういう意味ですか?」
「解んないなら良いよ。……リンはそれでいい」
何なんだ?!…勝手に出て来て、勝手に自己完結して、面白く無いったら!!
「………」
私はさっさと終らせるべく、すたすたとルーク様を置いて歩きだした。
それが有り得ない行動だと言うことは解っている。
彼は主人で、私は使用人だ。でも、魂迄媚びるつもりはない。失う者等もう何も無いのだから、不敬罪で殺されたなら、それでも構わないと思っていた。
「ごめん、リン。気を悪くしたなら許して欲しい。…君を馬鹿にした言葉じゃない。…寧ろ、そんな君が嬉しくて言ってしまった言葉だった」
何なの、この人。
何で、叱りもせずに謝ってくるのだ?!
おかしいだろう、世間知らずな私にだって解る、この人が規格外だと言うことは。
「…何なんですか、貴方は!?…貴方が私(使用人)に謝る事なんて何も無いでしょう!?」
何で必死にご機嫌とりにくるのだ。
世間では、悪いのはきっと私の方だろうに、
「俺がリンに嫌われたくない。…正直で真っ直ぐな君のままでいて欲しい。君は悪くない。……ないから、俺に対する態度も、どうか変えないでくれ」
懇願してくる、子どもの様な表情に何も言えなくなってしまった。
「………仕事の邪魔したら、怒りますからね?」
ここで、絆されてしまう私は……やはり甘いのだろうか?
◇◇◇
「ルーク様は変です」
あれから、大人しく私が掃除しているところを見ていた。
まあ、たまに手伝おうとするのを止めたりはしていたが。
掃除を終えて使用人の控え室に戻ると、上司であるメイド長のアンさんに愚痴ってしまった。
だって内情を知っているのは彼女を含めて一握りなのだから、その辺は受け止めて欲しいところだ。
「リンは随分懐かれたわね」
「感想がそれですか」
「申し訳無いとは思っているわ」
「アンさんは、ルーク様との付き合いは長いんですか?」
誰もいないのを良いことに、探ってはいけない!主人の過去を聞こうとする辺り、私も物好きだ。
「………あの方がまだ幼い時からお仕えしているわ」
「前からあんなん何ですか?」
「……私から言える事は少ないけれど、でも、出来ればリンにはルーク様のことを理解して欲しいの。…昔を語りたがらないルーク様も、貴方にならきっと過去を話すんじゃないかしら。…」
それまで待てと言うことか。
まあ、それほどまでして欲しい情報では無いから、大人しくて引き下がる事にした。
正直、疲れているのもある。初日から色々ありすぎた。
私は仕事を終えて、部屋に帰るとそこには………、ルーク様がいた。
「お疲れ様、リン。…もう食事は済ませたかな?」
「……済ませましたけど……」
「一緒にお茶でもしないか?」
等と誘ってくる。
「良いですよ?」
私が返答すると、何が嬉しいんだか、彼は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
ちょっと変人だけれど、1日の仕事のご褒美が美形と美味しいお茶なら………まあ、悪くは無いでしょう?
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