第2話怒りますよ、ルーク様!!

おかしい。

ふかふかで柔らかくのびのびだった筈のベット少し窮屈に感じられたのだ。


私は金縛りにでもあっているのだろうか?

体が動かない。

しかも暖かい。……でもそれは布団を掛けているから当然?なのかな。

良い布団はそこから違うのか?

そんな事を考えているとより強い力で体を拘束され始めた。


「何で……?」


いよいよおかしいと感じた私は睡魔を何処かに追いやると無理やり眼を開けた。

窓からの光が無いところを見るとまだ朝じゃないのだろう。 薄暗い部屋………もとい目の前の物体を見て私は絶句した。

何と私をホールドしていたのはルーク様だったのだ。

でも、どうやって彼はこの部屋に入ってきたのだろう?

メイド長のアンさんに若い女の子だから、と鍵のかかる部屋をあてがって貰ったのに。

随分と冷静に考えているが、怒鳴るわけにも、悲鳴をあげるわけにもいかない相手なのだから、こちらだって必死に違うことを考えるしかない。

ルーク様は夢遊病か何かか?そうでなければ、あまり容姿の良い方ではない私のベットにわざわざ入り込んだりはしないだろう。

身分と容姿のスペックの高さから言っても選び放題、遊び方放題の筈だ。

一生懸命違うことを考えて、思考の纏まりを食い止めているが………。

ただ、もう限界だった。


「ルーク様……ルーク様起きてください!」


ちっ!…ピクリともしないどころかもっとくっついてくる。

私は何とか自由になった左手で、思いっきりルーク様をデコピンした。


「痛!!……」


赤くなったおでこ。

やっとルーク様はうっすら右目を開けた。

何か美形がウィンクしている見たいでムカつく。


「………まだ夜じゃないか。……起きる時間じゃないよ」


またも寝ようとしやがったから、つい怒鳴り付けてしまった。


「何故に貴方は私のベットにいるんですから!?…部屋に入り込む相手を間違えてますから、起きて下さい!!」


何とかデコピンの次は頬をつねって起こした。


「間違えて無いよ?…」


寝ぼけながらもルーク様は答えた。

くそ!…チョッと可愛い。


「いーえ、間違ってます。……ここは私の部屋です」


「だから、間違ってないよ、リンの部屋でしょ?」


「!!!!!」


こいつ、解ってて私の部屋のベットに入り込んできたのか?

怒りが頂点になった私は、ルーク様が起きた事で、私を抱き締める手を緩めたのを良いことに、胸ぐらを掴んで勢い良く頭突きをした。


「いってえ……」


「自業自得です。……何ですか、公爵様ともあろうお方が、使用人のベットに潜り込む何て、恥ずかしいとは思わないんですか!?」


「使用人じゃなくて、リンのベットでしょ?」


この野郎。この際どっちでもいいが、ムカつく。

「どちらでもいいです!!ルーク様のベットじゃない事は確かでしょう!?」


いや、この屋敷の物は全てルーク様の物で、何なら私の物は私の体だけだが。


「一人じゃ寝れなくてね」


「なら、他の人のベットにしてください」


「他人がいると気配で起きてしまうんだ」


「意味わかんないです、私だって他人でしょう!?」


「うん……だから驚いてる。……昨日挨拶した時に、俺がリンに近付いたでしょう?…リンの眼が昔飼っていた馬と同じだったからかな……不思議と親近感が沸いて………近付いても珍しく不快感が全然なかったから、試しに潜り込んで見たんだよね」


照れ笑いを今する理由がわかんない。


「だから何で他人のベットに潜り込むんです!?」


「不眠症なんだ……酒を飲んでも、薬に頼っても寝れない。この際何でも試したかった。だからアンを何とか説得してリンをこの部屋にしてもらったんだ。……この部屋は俺の部屋と隠し通路で繋がっているからね」


やられた。

アンさんのこと信じていたのに。


「アンは最後まで反対してた。……でも俺の命令だからね。……その代わり、リンを傷つけたら許しませんって、言われたよ」


「……」


「ごめん……でも、数年ぶりに熟睡できたんだ。リンからは安眠できる何かが出ているのかも知れないな」


………。


「……酷い。……でもそれじゃ怒れないじゃない」


私が下を向くと、ルーク様はそっと抱き締めて、ごめんなさいと呟いた。

余計に怒れない。

彼はこの地において、何をしても許される権限がある。

その彼が、たかが使用人の一人でしかない私に謝ったのだ。

それだけでも、このお役目に意味があるように思えてくるから不思議だ。彼は権力者の様じゃない。……無駄に質が良いベットだった意味も解ってしまった。

この屋敷の主が寝るのだ、質が良くて当然だった。

あの後、もう一度同じベットで眠りについたが、(その行為は愛人ではなく抱き枕だと彼の方が断言したのだ

)どうしたって使用人の私の方が先に起きる為、気持ち良さそうに寝ているルーク様をジト目で睨みながら私は初出勤を果たした。

アンさんに昨日の事を問い詰めると(もう怖いものなんてない、)

難だか解らないうちに私の仕事のひとつにルーク様との添い寝が加えられててしまった。


まあ、この添い寝以外は嫌な事が1つもない職場でしかも特別手当て迄出してくれると言うのだから此方としても文句はなかった。

ただ雑魚寝するだけで、大金が手に入るのだから。

それに、私の部屋がルーク様と繋がっている事を知っているのは、ルーク様を覗き、アンさんと執事長のシリウス様だけだから、変に勘ぐられる事もないだろう。


あくまでも、これはお仕事だ。

この時は、ホントにそれぐらいにしか思ってなかったのに……。

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