中編 INCREDIBLE WAR
CHAPTER 8
戦場となった大広場を駆け抜けるヒーロー達と、それを迎え撃つ魔人達の叫びは、絶えずこの帝国に轟いていた。逃げ惑う人々の中には、その死闘に見入ってしまう人もいる。
「ハァ、ハァッ……よ、よし。これより貴様らは、我らがテルスレイド殿下の配下として――」
そんな人達にも避難を促しながら、ジークロルフさんは自分が連れて来たヒーロー達に、輝矢君の部下になるよう呼び掛けていた。
……のだが。誰一人として、彼の話に耳を傾ける人はいない。皆、戦いに集中しているのだから当然といえば当然なのだが。
「ハ、ハァ、ハァッ……ちょ、貴様ら、少しは私の言うことを……ボヘェィ!」
すると。混戦の中から飛んで来た
建物から転げ落ちた彼は広場に墜落し、ピクピクと震えている。なんとか助けに行きたいけど……すでに周りは魔物だらけになっている。
一方、すでに広場では敵味方入り乱れての大混戦となっていた。鋼鉄食屍鬼達を蹴散らすヒーロー達は、その圧倒的な力と技で戦場に嵐を呼んでいる。
「言葉が通じるドラゴンなんて、初めて見たよ……! 力を貸してくれ、トムッ!」
『あぁ。……下がってな、一気に焼き払うッ!』
輝矢君がトムと呼ぶ、ジャンボジェット級の巨大ドラゴン。彼はその大顎を開き――そこから放つ火炎放射で、鋼鉄食屍鬼達を容易く焼き払っていた。
「よし……道が拓けた!」
『魔人はこの先だ! 行け、テルヤッ!』
「あぁ、ありがとう!」
その威力に何十という悪鬼が消し飛ばされ、彼らの眼前に広く黒焦げた「道」が顕れる。それを切り開いたドラゴン――トムさんに礼を言いつつ、輝矢君は鉄球を振るいながら前進して行った。
『ポピピッ!』
「その子、バルチャーと違って喋れないのね」
「バルチャーってのは知らねぇが、俺には分かるから良いんだよ」
その輝矢君を狙う鋼鉄食屍鬼達を、火弾さんと白髪の少女が阻止している。メタリックブルーの装甲を纏い、指先から
彼女は軽やかな身のこなしで跳びながら、火弾さんの背後に迫っていた鬼達を拳1発で沈めて行く。
「……嬢ちゃん、アシスト上手いな」
「似たような人と、嫌ってほど組んでるから」
「へぇ、1度お目に掛かってみたいもんだッ!」
だが、鋼鉄食屍鬼は無数に沸いてくる上に、ヒーロー達だけでなく民間人まで狙っている。その攻撃を阻止するべく、火弾さんは両肘のジェットを噴かしながら他の場所へと急行して行った。
「バルチャーに比べれば随分とスリムなスーツなのに、大したパワーじゃない。……負けてらんないわ」
その背中を見届けながら――白髪の少女も黒装束を翻し、次々と鬼の群れを叩き伏せて行く。
一方、別の戦場では叢鮫さんと、あのライオンの頭を持つ半獣人戦士が共闘していた。文字通りの
その凄まじい剛力にモノを言わせる、鉄拳の嵐が――叢鮫さんを襲っていた鬼の群れを、纏めて吹き飛ばしていた。
「ヒーローだなんて名乗る気はねぇが……人間を守るってのが、俺の役目だ!」
「奇遇だな、俺もだ。……まだ周囲に大勢の民間人がいる、援護を頼めるか」
「任せな! ――フレイムバレットッ!」
彼らは会ったばかりだというのに、すでに信頼を深めているのか――剛腕と盾を活かした連携で、次々と鋼鉄食屍鬼達を蹴散らしている。
半獣人戦士の両腕から放たれる灼熱の炎弾が、迫り来る鬼達を鎧ごと焼き払っていた。
「……けどよ。そういうあんたこそボロボロだが、大丈夫なのか?」
「死に瀕することも、それでも戦うことも……今に始まった事ではない。お前も、そうなのだろう」
「へっ……まぁな!」
お互いの「眼」に、思うところがあったのだろうか。彼らは視線を交わし合うと、戦意に溢れたオーラを全身に纏いながら――すれ違うように、それぞれの敵へと向かって行った。
叢鮫さんは、魔人の方へ。半獣人戦士は、民間人を狙う鬼達の方へ。
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