CHAPTER 7


「まさか、次元まで超える転移魔法が実在するなんてね……。スパイクが聞いたら、なんて言うかしら」


 漆黒の装束を纏い、純白の髪を靡かせる1人の少女。その可憐な外見に反して、彼女の佇まいは戦乙女ヴァルキリーのように凛々しい。


「……こいつは驚いたぜ、鍵の力もなしに空間転移をやってのけるとはな。聞いてた通り、如何にもな連中が雁首揃えてやがる」


 ライオンの獣頭に、筋骨逞しい裸の上半身。下半身に真紅のパンタロンとシューズを身につけた、異形のヒーロー。その獰猛な眼差しが、魔人達を真っ直ぐに射抜いている。


「アイスラーさんから事情は聞かせて貰った。……宇宙刑事として、君達を放っておくことはできない」


 黄金色の装甲強化服で全身を固める、凛とした佇まいの青年。その手には、日本刀を彷彿させる細身の剣が握り締められていた。


「……ここ、嫌な感じがたくさん……!」


 褐色の肌と黄金色の髪――そして、2mを優に超える巨躯を持つ、大柄な女性。堅牢な筋肉の鎧で全身を固めている彼女は、面積の少ない毛皮を身に付けているだけなのだが――その姿は色気というよりはむしろ、筋肉が際立つような力強さを感じさせる。


「異世界召喚に鬼の群れ……か、いい『取材』になりそうだねぇ。雷光鬼らいこうき蔵王丸ざおうまる――推参」


 斜に構えながら、印を組んだ右手を指すように伸ばして、名乗りを上げる――異形の「鬼」。深い緑色の身体と1本角を持つ彼は、革の胸当てや肩当てを身に付けていた。


「魔人に食屍鬼……なるほどなぁ、確かに『魔少女』にはうってつけの領分ってわけだ」


 王道な「魔法少女」を彷彿させる衣装を着込んだ、1人の美少女。戦場の風に靡く桃色の長髪や、その可憐な容貌――とは裏腹に、彼女の眼には歴戦の色が滲んでいる。


「……物見遊山、っていう空気じゃあないな。けど、退屈はしなさそうだ」


 栗色の髪としなやかな手足を持つ、青い甚兵衛を着た少年。左耳にインカムを付けた彼の肩に乗っている、おかっぱ頭の女の子を模した人形達は――彼の元を離れると、ひとりでに動き始めていた。


「事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだ。……この俺が、異世界召喚とはね」


 「悪魔」と「騎士」を想起させる、甲冑状の強化服を纏った青年。黒を基調とする彼のスーツの節々には、赤いラインが窺える。


「――日本警視庁所属、特攻装警第7号機『グラウザー』。現時刻を持って2次武装装甲システムの装着に成功、同時刻より2次武装装甲の運用による戦闘行動を開始する」


 白銀と青をベース色とする、鋭角的な外骨格を身に付けた青年。彼の両肩にそびえる大型のショルダープロテクターアーマーには、金色の桜型エンブレムが煌めいていた。


「ジークロルフさんから、お話は聞きました。……僕も、全力を尽くします!」


 金色の装甲で構成された鎧を纏う、12歳程の少年。彼の頭部にはバイザー付きのヘルメットが装着されており、その背中には天使のような純白の翼が広がっていた。


『随分と狭い戦場だな。……また・・街が壊れる前に、とっととカタを付けるとするか』


 ジャンボジェット機に匹敵する程の巨体を誇る、異世界のドラゴン。圧倒的な体躯を持つ彼は人語を発しながら、鋼鉄食屍鬼達を悠然と見下ろしている。


「どんな世界であろうと、私は今に命を賭けるだけだ。――バイカー・ファイト!」


 飛蝗を模した仮面を被り、緑のスーツを身に纏う青年。その赤い拳を構えながら、彼は勇ましく見栄を切っていた。


「異世界だろうがどこだろうが、今日よりマシな明日にしてみせるさ。……それが俺達、『ストライク・ブラック』の兵士だからな」


 21世紀のVRゴーグルを彷彿させる装備と、黒尽くめの戦闘服で全身を覆い隠した謎の兵士。彼は拡張マガジンを装着したハンドガンを構え、鋼鉄食屍鬼達に狙いを定めている。


「召喚されて早々、復活した魔人に魔物の群れ……か。まさに『初っ端からクライマックス』って感じだね」


 青いマスクとスーツを纏う、ヒーロー然とした風貌の小柄な少年。その素顔を隠している緑のバイザーからは、金色の髪が僅かに覗いていた。


「おおっ、これはまた賑やかな戦況ですねぇ! 結衣ゆい様、これは魔法少女としてビッグになるチャンスですよっ!」

「ガーネット、うるさい! ていうか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょっ!」


 桜色のグラデーションを伴う白い髪をツーサイドアップに纏め、深い緑色を湛えた瞳を持つ幼い少女。紅いスカートを身に付けた彼女の腿には、紫のガーターベルトが備わっていた。

 そのか細い手に握られているステッキは喋れるらしく、何やらはしゃぎ立てている。


「これはこれは……救い甲斐のある魂の群れですね。『羅刹寺らせつじ』の僧として、務めを果たすとしましょうか」


 狂気を宿す眼差しに、つるりとしたスキンヘッドを持つ猫背の男性。異様に長い両腕と湾曲した爪を持つ彼は、薄い水色の着物を纏い、その首に赤黒い数珠を掛けている。


「あの人達は……」


 私や輝矢君達がいた、2121年の地球とも――この世界とも違う「異世界」。そこにある無数の可能性から、彼らはやって来た。


 ――魔人を倒すために、輝矢君のために。ジークロルフさんが、連れて来てくれたのだ。


「ジークロルフ……!」

「殿下……後のことは」

「……わかってる。任せてくれ!」


 その想いを受け取り、輝矢君は鉄球を振り上げ己を奮い立たせている。そんな彼の背を目にして、この世界に来たばかりのヒーロー達は――示し合わせたかのように、同時に身構えていた。

 すでに事情は聞き及んでいるらしい。いきなり戦場に放り込まれたようなものなのに――彼らは全員、誰一人として揺らいではいなかった。


「……来てくれて、ありがとう。力を貸してくれ、皆ッ!」


 その勇姿に希望を見出し、輝矢君は感謝の声を上げる。だが、彼らの眼差しは敵方にのみ向けられていた。

 礼なら奴らを倒してからだ、と言わんばかりに。


「異世界人が何人群がろうと、魔人に敵うはずがない! ヴァイガイオン、そしてその眷属共よ! ルクファード・セイクロストが命じる――奴らを駆逐せよッ!」


 対するは、ルクファード陛下が操る魔人と――その傘下に付く鋼鉄食屍鬼。彼らの軍勢と、輝矢君を筆頭とする闘志の群れグリット・スクワッドが、暫し睨み合う。


GRITグリット-SQUADスクワッド――ASSAULTアサルトッ!」


 そして――セイクロスト帝国に伝わる「開戦」の合図を、輝矢君が叫んだ時。

 雄叫びと共に、総力戦の火蓋が切って落とされた。怒号、絶叫、轟音。その全てが天を衝き、この黄昏の空の下に――激突する。


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