CHAPTER 2
――剣と魔法の異世界で、ギロチン台に連れて行かれる、無力な日本人。それが、今の私だった。
本来なら、とある航空会社の社長令嬢として生を受けるはずだった私の人生は、20年前に起きた旅客機の墜落事故によって一変した。
大勢の死者を出した父の会社は事故の責任を問われ倒産し、生まれて間もなく私は家族と離れ離れになり、親戚からも虐められ孤児となった。それでも、こんな私を引き取ってくれた孤児院で働き続けて、今年ようやく20歳になる。
そんな私を支えてくれていたのは、同じ孤児院で共に暮らしていた、
彼は私達の窮状を解決するために、私と孤児院の子供達をこの帝国に移住させようと考え――兄と話し合うべく、「師」と共に帝国へと向かった。そして私達の受け入れを、兄である現皇帝陛下に承諾させたのだ。
元々帝国内でも、陛下より輝矢君の方が人気があったこともあって、当初は私も子供達もすんなりと帝国に移り住めた。
この剣と魔法の異世界で、輝矢君と私達との、新しい日常が始まるのだと――期待していたのだ。
しかし、そんな都合のいいことばかりは起こらなかった。
第2皇子である輝矢君が帰ってきたことで、現皇帝陛下の地位が危ぶまれると危惧する家臣達がいたのだ。国民からの人気は輝矢君の方が上なのだから、当然だろう。
彼らは輝矢君を追放するために「国家転覆を狙う魔女」という濡れ衣を私に着せ、死刑にしようと企んだ。輝矢君は、それを阻止しようと戦ったのだが――家臣達は、彼を退ける為に「禁呪」に手を出していた。
数百年前に帝国の聖騎士達が総掛かりで、地下深くに閉じ込めていたという漆黒の魔人「ヴァイガイオン」。彼らはその封印を解き、現皇帝陛下の眷属にしてしまったのだ。
魔人の前には、「
彼に魔法や武芸を教えた「師」である聖騎士団長も、今は囚われの身となっている。数日前――必ず皆を助けに来るから、と悔しげに言い残した輝矢君の顔は、今でも眼に焼き付いている。
――だが、そんな必要はない。
彼は、私が地球から連れて来た孤児院の子供達だけは、無事に救出してくれたのだから。あの子達さえ地球に帰してくれたのであれば、もう悔いなんてない。
ほんの短い間だったけど、生まれながらの「咎人」だった私に、緑豊かな異世界の景色を見せてくれたこと。こんな私と、共に生きると約束してくれたこと。
それだけで本当に、私は満たされていたのだ。身に余る、幸せだと。
だからどうか、助けになんて来ないで欲しい。そして私に代わって、
せめて私が死んだ後、彼らが幸せな未来を歩めるように。
「
――そう、願ったのに。結局、あなたは来てしまう。
魔法によって円形に開かれた、異世界の「
私の名を呼ぶ結城輝矢こと、テルスレイド・セイクロスト殿下は――この異世界に、帰って来てしまったのだ。
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