第21話 彼女は思ってた以上に
「……でも、師匠。そんなこと言ったって。大体今ここまで動けてるのはある程度俺が師匠の動きを知ってたからで–––––––」
「まぁ、普段ワシとやり合ってるせいで、ワシの動きに慣れてしまってるところもあるじゃろうな。そこまで実感が持てんのもわかるよ」
「––––––なんだ、わかってたんですね……」
そう言って師匠はウンと唸って体を伸ばす。クールダウンのようなものだろうか。
慣れてる、か。確かにそうとも言えるかもしれない。さっきの師匠の動きに俺が対応できたのは、ある程度師匠の動きを知っていたからだ。
動きを知っていれば、どんなに練度が高くても大体どう動いてくるかが予測できるので、ある程度対応が可能になる。
だから、俺には「この程度どうってことはない」って感じてしまう訳だけど、師匠はそんなのお見通しだった訳だ。
「当たり前じゃ。誰がお前を育てたと思っとる。だから–––––––、それを覆すための案を今考えたところじゃよ」
「ちょっと待ってください。なんか面白いこと考えたみたいな顔しないでください怖いから」
師匠は頭上に伸ばしていた手をぱっ、と話して、ふうっと深く息を吐く。そして、不敵な笑みを浮かべた。
なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。
この人の思いつきはなんだかんだでその場しのぎの力技だったり、めちゃくちゃ荒療治だったりするから。
そう思うと、鳥肌が足から頭上に伝わるような感覚が体を包んで、少しブルっと震えた。
「さて佐倉さんや。少し聞きたいことがあるんじゃが」
「? はい、なんでしょうか?」
「司とこうした試合形式でやり合ったことは、あるかいな?」
「いえ、ないです……。小手調べ程度ならしたことありますけど、あれは……」
佐倉さんはあの地下基地での一件を思い出したのか、少し気まずそうに俺のことを見る。まぁ、彼女にとっては嫌な記憶だし、しょうがないか。
でも確かに、佐倉さんとはいっぺんだけぶつかったことはある。けれどあれはやり合った、と言うには程遠いであろうとは思う。
だってあれ「勝負」とも「闘い」とも言えないだろうし。俺に戦う意思が無かったのもそうだし彼女だって迷いがあったわけだし––––––––って、
あ、なんとなく、わかったかも。師匠の考えてること。
でもさ、師匠。それってあまりにも–––––––––、
「じゃあ丁度いい機会じゃな。2人ともいっぺんぶつかってみぃ。司は自分の力を測れるし、佐倉さんは司の力を直に体験したいと思うとるじゃろうし、お互い悪いことはないじゃろ」
唐突すぎやしませんかね。
いくらなんでも場当たりすぎやしませんかね?
そう言おうとした。
けれど、それは次の佐倉さんの言葉に遮られることになる。
「そう、ですね。是非、手合わせしてください。天龍くん。あんなの見せられたら私、ちょっと……」
……この前、ミソラさんが言ってたことが、なんとなくだけどわかった気がする。
やっぱり彼女、俺の想像以上に––––––––、
「ワクワクしてきちゃって。だから、試合の本気程度に、ぶつけさせてください」
佐倉さんって、こんな人だったのか。いや彼女の意外な一面なんざこの組織入った時からいっぱい見てきたし、驚きもした。でも、今回のそれは今までの中でもとびっきりだ。
いやまぁ、確かにミソラさんが言ってたことではあるけどさ。ここまでとは思わないじゃんか。
なんすか自分の知らない技術見たから闘ってみたいって。戦闘民族か何かか。
ハツラツとしつつも、落ち着いた印象を彼女には持ってたから。そりゃ呆然としますよ。
「……わかったよ。手柔らかに願いますよ。佐倉さん?」
「あら、組織で『お手柔らかに』なんて考えは甘いんじゃありませんでしたっけ?」
「いや、この場に限っては使わせて。まさか佐倉さんがこんなこと言うなんて思っても見なかったんだから」
丁度この前、ミソラさんとやり合った時に思ったこと。それを突かれてちょっと歯痒くはあるけど。
この場においてだけは、撤回させてください。そう思わざるを得なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます