第12話 問いかけ
それは高齢者や高負荷の肉体労働従事者の補助装置としてニュースでよく取り上げられていた「パワースーツ」をより高性能にしたものだ
自分の戦闘スタイルに合わせて膝、腰、肘、肩など、それぞれ自身が強化したい部位に装着する。
外見はサポーターや、腰の場合はコルセットのようなものとさして変わらないため、従来の強制ギプスのようなパワースーツに比べて機動性が圧倒的に優れている。その上強化させる力を必要に応じて細かく調整できることから、陰に身を潜ませる隠密任務から派手に暴れる制圧任務まで幅広く使用可能なことから利便性にも秀でており、任務の効率化、諜報員の生存率を飛躍的に上昇させる画期的な製品である––––––––––。
……以上、佐倉さんから聞いた「パワーブースター」とやらの説明だ。
ここは訓練室のすぐ横にあるレストルーム。詳しい説明をする必要があるからと佐倉さんに連れられて、解説ついでに簡単な応急処置をしてもらってる。
なるほどね。よーくわかった。この前のあの佐倉さんの馬鹿みたいな力も、ミソラさんの繊細な剣捌きも、全部その装置による補助があってこそできたことなのか。そっかそっか、となんとなくだけど納得できた。でも。
「そんな便利なアイテムあるなんて知らなかったんだけど………ってて、痛……」
「私はもう聞いててつけてるものだと思ってましたよ。全く、あなたって人はほんと無茶ばっかり……!」
そんなものがあるならこんな怪我しなくて済んだんじゃないかっていうのはどうしても思ってしまうことだ。
そして佐倉さんはもう知ってるもんだと思ってたらしい。
彼女からしたらただでさえ無茶な誘いを受けたと思ったら、その無茶を簡単に覆してしまうレベルの暴挙、に映ったらしいけど。
「悪かったけど、そんなアイテムあるなんて知らなかったんだからそんな怒らなくても……っでぇ!?」
「知りませんよそんなことっ! あんなおっきな物正確に振り回してるミソラちゃん見ておかしいと思わなかったんですか!? 確かに訓練された物ではありますけど!」
それは理不尽じゃありませんか?
そして思い切り湿布叩きつけられた。小気味良い音が部屋中に響く。痛え。
後ろを見てみると、彼女がしかめっ面で頬を膨らませながら包帯をなれた手つきで俺の体にグルグルと巻いている。
「全くもうっ。貴方はいつもいつも……。一度決めたら何があっても聞かないんだから……! 心配するこっちの身にもなってください……!」
まぁ、俺にとっては理不尽に違いはないけどさ。
彼女が心配してくれているのはよく伝わってくる。実際に無茶したわけだし。
それだけでも、こんなに怒られるには十分すぎる理由かもな、なんて心の中で納得する。
「……悪かったよ。心配かけて」
「……もう別にいいですよ。貴方がそういう人だっていうのは昔から知ってますし。それで助けられたのも数知れずですから。はい、終わりましたよ」
彼女はぽん、と俺の背中を優しく叩いて、応急処置が終わったことを知らせてくれる。身体の調子を確かめるために少し腕をグリグリと動かしてみる。
すごいな。包帯の巻き方がうまいからか全然キツさを感じない。
「でも、こうして心配する人がいるってこと、忘れないでくださいね。貴方は、私の大切な人なんですから」
「……わかったよ佐倉さん。ありがとう。今後はこんなこと、ないようにするからさ」
「その言葉を信用できるようになるのはいつになるんでしょうね?」
痛いところを返された。確かに、今のまんまじゃまた今みたいなことになって、彼女を悲しませることになるのは火を見るより明らかだ。
そうならないためには……今よりもっと力をつけるくらいしか思いつきはしないな。
これから課題は山積みってわけだ。でも今は––––––––––––、
「いやー熱いねお二人さん。イチャコラすんのもいいけどさぁ、トレーニングルームでミソラの奴が待ってっから早くしてくれると助かるんだけど?」
突然、後ろから女性の声が聞こえてきた。
オレンジに染めた髪に背の高い女の子……、確か津浦さん、だったか。
「夏希ちゃん。ごめんね待たせちゃって。……どうせリベンジとか言って行くんでしょ? 天龍くん」
佐倉さんが呆れたような、そんな表情で問いかけてくる。確かにあれだけ心配されて、もう2度と心配させないなんて言った直後で気まずくはあるけれど。
彼女、ミソラさんとあと少しだけ、面と向かわないといけないって思ってる。
「うん。申し訳ないけど、そのつもりだよ」
「あたしたちもそうだと思ってたからこうして呼びにきたんだよ。見たところまだ目は死んでないようだしね。で、だ。そんな熱いルーキーに聞きたいことがあんだけどさぁ」
津浦さんはあくまで飄々と、言い換えればおちゃらけた雰囲気を崩さないまま話を進める。
でも、その言葉の奥には何か、鋭く、重たいものがこもっているような感じがした。
「正直、あたしはミソラの言うことに賛成だよ。一般人の誰か特定の人間を守りたいなんてそんな言葉、腐るほど聞いてきたからね」
その目は俺を見つめつつも、どこか遠くを見ているようだった。
何を、考えているのだろう。何か、そこに感じるものがあるのだろうか。
何か、感じ入るようなことが、昔あったのだろうか。
「そんなこと誰かれ構わず吹聴する奴に限って、いざって時–––––––、逃げ出しちゃうもんなのよ。今は訓練だし、殺される心配なんてないってわかってるからそんなこと言えるかも知れないけどさ」
軽そう、なんて第一印象、撤回する必要があるかもしれない。彼女はきっと俺が思ってる以上に、色々考えてるものがあるのかも知れない。
「だからあたしからも言っとく。中途半端な覚悟は邪魔なんだよね。逃げ出すなら、今のうちよ?」
彼女は少し脅すような口調で、俺に問いかける。
彼女に昔何があったかなんて知らない。
「……まぁ、貴女に何があったかは詳しくは聞かないけどさ」
知らないけど、これだけは言える。
彼女のその「問いかけ」に、俺は。
これだけは確実に言えることがある。
「その覚悟は中途半端なんかじゃないよ。何せ……、殺されかけましたからね。俺」
自分でも、やたらハッキリとした口調だったなって思うよ。
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