第8話 その後について

「ハロー佐倉さん。ご機嫌麗しゅう」

「おはようございます天龍くん……ってどうしたんですかその頬っぺた」

「昨日ちょっと親に殴られまして」

「あ、なるほど……」


 翌日、約3日ぶりの学校で、現在校門付近に差し掛かったところ。そこで偶然佐倉さんと遭遇した。俺の話を聞いて申し訳なさそうな顔をしてる。


「別に佐倉さんのせいじゃないよ。そんな顔する必要ないって」

「そう言ってくれても、やっぱり気にはなりますよ……」


 さて、2日間俺はあの学校の地下にある秘密基地にいたわけだけど。

 その間ずっと俺は行方不明者として捜索がなされていた。夜霧さんから話を聞いた限りだと、その期間はあの日の放課後からとのことだ。


 さて、ここで1つツッコミどころが出てくる。

 俺があの穴に落ちたのは5限の直前。それなら5限の時に誰か気づかなかったのか、というものだけど。

 でも、そこは流石政府公認の秘密組織というべきだろうか。俺に変装した諜報員(というより総指揮官自らが変装したらしいけど)が俺の代わりに5、6限を受けていたらしい。


 で、そうした後に放課後に姿をくらませれば、行方不明時間をでっち上げられるってスンポーだ。


 どこで顔情報とか割れたんだとは思うけど、よくよく考えたら事前に俺についての情報は入手してたらしいし、できなくはないか。


 行方不明になった言い訳を作るのは簡単だった。この地域は都会に属するけど、元からかなり大きな裏山がある。

 まぁそこまでは特段珍しいものじゃないのかもしれないけど、その裏山の厄介なところは結構鬱蒼としてるかつ地形が複雑で、一旦奥の方まで行ってしまうと相当慣れた人でもない限り中々出れなくなってしまう。


 俺が地下から出てきた出口は、その裏山のちょっと奥にあったから、間違えて裏山の奥に入ってしまい、出れなくなった–––––––、なんて言い訳をお巡りさんに話したら一応は信じてくれた。


 まぁ親父には思い切りぶん殴られたけど、心配かけてしまったし、知らないところでとはいえ死にかけもしたから、当然のことだ。


 それで一応裏山で遭難した(ことになってる)から、大事をとって1日休養を挟み、本日から晴れて学校に登校できるようになったわけだ。

 佐倉さんと俺は、そのまま一緒に歩き出して、昇降口へと向かう。


「それで天龍くん。本当に良かったんですか? その、私達の組織に入るってこと」


 彼女は心配そうな顔でこちらの顔を覗き見るような仕草を取る。あの組織に入ることを決めた時、一応佐倉さんには決心した理由も、別に誰に強制されたわけでもないことは伝えてあるんだけど、やっぱり彼女からしたら俺は一般人な訳で。

 強制されたからとか、何か後ろめたいものを感じたからとか、やはりそういったものがあるんじゃないかって勘ぐってしまうのだろうか。


「別に大丈夫だって。前も言ったじゃんか。確かに俺の知ってる人が関わってるって事知って、居ても立っても居られないってのはあるけど、それは後ろめたさからとかじゃなくって、単に俺がそうしたいってだけだし、別にそれだけじゃないしさ」


 後々後悔に悶えるような選択はしたくなかったってだけだ。

 いや記憶を消されるんだから後悔もクソもあるかいって思うかもしれないけど、これは俺の心の問題だからなぁ。


 それに、俺の身近な人が、師匠以外にもまだあの組織に関わってるかもしれない。後日問いつめるつもりではいるけど。

 師匠があの組織に関係してるかもしれないとわかった時、そんな可能性が頭をよぎって、知らないまま忘れるわけにはいかないと思った。


 だからあの組織に入る決断をした。

 別に佐倉さんが気に病むことではないんだけど……、心配してくれてんのか。優しいなあ。


「んむぅ……。あとで怖がったって私は庇えませんよ?」

「もちろん怖いけど、ずっと仲良くしてもらってた佐倉さんがあの組織に関わってるって知って、そのままにしとく方が後悔しそうだったしなぁ……」

「記憶なくなっちゃうのに後悔も何もあるんですか?」

「なに、心の問題だよ。力になりたい、ならなかったら後悔するって心が言ってたから」


 あはは、言われちまったよ。そんで王道が顔真っ赤にして逃げ出すほど青臭いセリフ言っちまったもんだ。恥ずかしい。

 彼女はそれを聞いて、悪い気はしなかったのだろう。少し顔を赤らめている。そして折れたように1つ息を吐いて、


「もうっ、わかりましたよ。心配だったから聞き直しただけです。ホント、お節介すぎますよ」

「ぐ、確かに自分のエゴだってのはわかってるつもりだけど……。でも……」

「別にいいですよ。それに少し嬉しかったし……なんて……」


 後半の方は小声かつ早口だったからよく聞こえなかったけど、別に悪くは思っていないのだろう。だってちょっと微笑んでるから。


「待って、後半の方なんて言ったの。早口かつ小声でよく聞こえなかったんだけど」

「別に? あ、ほら、急ぎましょう! みんなに天龍君の元気な姿見せないと。心配してるでしょうから!」

「え、ちょい待ち佐倉さんなんで走るの!? 廊下走っちゃいけないんじゃ」

「それとこれは話が別ですよっ!」


 何かはぐらかすように彼女はスタコラサッサと走り出してしまう。そんなに言いたくないことなのかよ。

 彼女の後ろ姿を追いかけるようにして走り出す。

 走っている最中、彼女が何かつぶやいた気がしたけど、



「……私が天龍くんのこと、護ってあげなくちゃ」



 それもよくは聞こえなかった。



 教室に入ってからはそりゃ大変だった。

 まず第1、クラスメイトが大砲から打ち出されたかのような速度で突進して––––––––


「生きとったんかワレェ!」

「生きて動いてルゥゥウ!」

「ぷちゃへ〒×%4|デゥイォヴ」


 オイ最後何語だよ。

 そして勝手に殺さないでくれ。心配かけたのは悪かったけど。


 とにかくそこから1日通して質問攻めにあったり何か気を使われたりでやりづらかった。まぁでも、それだけ心配してくれてるってことの裏返しだから、すごく嬉しくはあるんだけど。


 で、だ。そんな1日を乗り切って放課後。俺は学校の裏にある物置倉庫に佐倉さんと一緒に居るわけだけど。

 なんでこんなところに来てるのかって、それは、


「本当にここに組織の入り口があるのかよ?」

「はい、私は大体ここの入り口を使ってますから」


 またあの基地に行くためだ。なにやら組織に入るための手続きがあるらしいのと、組織についてこの前より詳しく説明しておきたいらしい。


「てかなんでうちの学校の地下にあんな仰々しいものが……」

「連携関係にあるんですよ。うちの組織がこの学校に資金援助をする代わりに、秘密基地としての場所を提供してもらってるんです」


 あぁ、なんとなく予測してた答えが返ってきた。と、いうことは校長先生はこのこと知ってんのか。 あの丸顔で優しそうな校長先生の顔を、ふと思い出す。この組織のことを知ってそうには、到底見えなかったけどな。

 人は見かけによらないってこの事か。


 佐倉さんは物置倉庫のドアを開けて中へと入る。

 そして、俺もそれに続く。


「ちょっと離れててください。今入り口開きますから」


 彼女はカバンからスマホを取り出すと、地面にそれをかざした。

 すると何処かで機械音が一瞬響いて、鋭く俊敏な音とともに、地面に穴がぽっかり空いた。

 地面には、地下に向かって階段が伸びている。

 その奥には、白い光がちらりと見えた。


「さぁ、行きましょうか天龍くん」


 佐倉さんに引き連れられて、俺は階段を降りる。

 頭上で、扉が素早く閉まる音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る