20. 恨みつらみ、嘆きの花
美女たちは濡れ光る蛇腹を上機嫌に波打たせながら「うふふふふふふ」と不気味に
その妖艶な微笑の先にいる顔面蒼白の殺人鬼は、己の技を封じられたことですっかり戦意を喪失したようで、情けなく腰を抜かして震えているばかりであった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
うっすらと涙の浮かんだ目は恐怖に痙攣し、後退るように必死に踵を地面に擦り付ける姿に、かつてのステージ上で眩いばかりのライトを浴びた《マジシャン》の面影は微塵もない。
何度も唾を飲み込もうと喉を上下させるが、口内がカラカラに渇いて悲鳴すら出ないようだった。
「お前さんは大勢の人の前で自分のことを話すのが好きなんだろ? 知ってるぜ、大の蛇嫌いなんだってな。有名な話だ。本当ならこんな姿ではなく、生前の美しい姿でこの世への未練を断ち切らせてやりたかったんだがな、お前さんに一泡吹かせるために協力してくれと掛け合ったら、この子らはこうして神々しい白い蛇の姿で恋人へ最後の挨拶をしに来てくれたのさ。泣かせるね。素敵な女性たちだ。男冥利に尽きるだろ?」
あはははは……あはははははは……
キティの言葉に同調するように、美しき彼女たちは
彼女たちは依り代たる美童から離れると、ズルズルと音を立てながら腹を波打たせ、ルーイににじり寄る。
「ぎゃああああ!」
ルーイは這いつくばるように後方へ逃げるも、すかさず伸びたセレナータの舌が逃げる足首に巻き付いて、綺麗に顔面から地面へ突っ伏す。嘲笑が暗天に高く反響する。
生前に受けた残酷な仕打ちの礼を今ここで清算しようというのだろう。彼女らは八つの股を深く割くようにして、それぞれがルーイの全身に絡みつくと、恍惚の笑みを浮かべて、細長い舌で生気のない頬をつい、ついと舐め上げる。ルーイは恐怖で抵抗すらできない。ただただ震えるばかりだ。
その瞬間、ルーイの喉から絶望の悲鳴が迸った。
彼女たちの細く長い舌が冷や汗の浮いた肌に垂れ、首を、鎖骨を這い、そのまま服の中へ滑り込む。体温を失って久しい舌のなんと冷たいこと。濡れた氷が肌の上を滑るようだった。それなのに水分を過多に含んだ触手を思わせる感触がこの上ない不快感を伴って狂気の悲鳴を迸らせた。
余りの恐ろしさに氷漬けにでもなったみたいに動けなくなったのを幸いとばかりに、彼女たちの猛追が開始する。
ローズとリリスは汗の浮く首筋をねっとりと舐めあげ、胸鎖乳突筋から鎖骨にかけての凹凸を愛おし気に堪能し、ソラと明日奈は子猫同士がじゃれ合うようにギザギザの歯で両耳を甘噛みする。メイと希李は恐れおののいて逆立つ髪を恍惚と食み、セレナータと蘭はズボンのベルトの隙間から細長い舌を忍ばせて下腹部をゆっくりと愛撫する。
彼女たちの官能的な愛情表現に、ルーイは一ミリたりとも情欲を掻き立てられることはなかった。それを上回るほどの不快感と恐怖に飲まれ、危うく失禁寸前だ。
「ひいいいいいいッ!? やめろ……!」
「うるせえ。黙ってろサイコ野郎」
ルーイが怯えれば怯える程、美女たちの肌に愉楽の色が焼き付く。血の気の失せた頬に瑞々しく朱が差し、揺蕩う髪が恋人の震える頬を慰めるようにやさしく撫でる。
カサカサに渇いた髪が肌を掠めると、ルーイの髪は毛先まで逆立つ。吐き気を堪えるような顔で唇を噛みしめ、「許して、許して、お願いだから――」と、死ぬ直前に彼女たちがした命乞いの言葉をそっくりそのまま放った。
「お前さんに許しを請う資格はない。あったとしても誰も許してはくれないぜ。それだけのことをした。いい歳した大人が、自分のしたことのつけも払わずにのうのうと生きていられるわけがないだろ。お前はこれから地獄より凄惨な思いをしてもらわないとな。彼女らばかりが割を食うのは可哀そうだろ?」
「なん……ッ」
「彼女たちの遺族のことを思うと胸が張り裂けそうだぜ。大事な娘・きょうだいが、こんなどうしようもない屑に殺されたなんて認めたくないだろうよ。自分の手で殺してやりたいと思うだろう。けど、そんな心の優しい善人がお前のために殺人を犯すのはもっと胸が痛む。だから、俺がお前を死の崖っぷちまで追い込んで追い込んで、この上ない恐怖に屈する様を見届けてやる。自己満足で結構だ。俺がやりたくてやってることだしな」
キティは哀愁を孕んだ、それでいて嘲笑と自嘲の狭間のような笑みを佩く。
ルーイはそれからも言葉を失いながらも抵抗の意を示したが、やがてはそれすらも弱まり、ぐったりと力を失って泡を吹いて気を失った。
「何だ、もう終わりか。つまんね」
キティは拍子抜けして肩を竦めた。
あははははは、あはははははははは……
彼女たちの
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