第3話【10】

妹からのメッセージ内容が異なるものとなった後、一方的に人さらいをして人数を減らす訳にはいかない状況に変化する。





なぜならば、今までと打って変わって、向こう側からもこちらに対し襲撃しゅうげきこころみるようになったからだ。





幸いタカシと二人で居る時が大半であったが、時と場所を選ばずにおそい掛かかってくる不特定多数の成人男性の群れに、呆気あっけなく不意打ちにて一方的にリンチされることになるかと思いきや、その点タカシは抜かりが無かった。





電気銃スタンガン鉄警棒スチールバトンは通常装備で、挙句の果てには簡易爆薬インスタントボムまで使い出す始末。捕らえた刺客しかくが気に入らなかったのか、嗜虐心しぎゃくしんを刺激されたタカシが暴走し、あやうく自宅の風呂場が全焼しかけたが、古い知り合い(だと一方的に言い張る)リフォーム業者の手によって、数日後には前よりも立派なジャグジー付バスルームに変貌を遂げた。襲われるのも悪くないなどと錯誤さくごしてしまいそうになる。





非現実的が常である日々が日常と化し、そして更に3週間が経過した。





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PM8時頃、空腹により目が覚める。冷蔵庫が空っぽであった為、晩御飯を買いに行くことにした。





昨晩よりタカシは僕と別行動をとっている。なんでももうすぐ妹の居城きょじょうが割れそうなのと、人数集めで忙しいから戻らないとの事だった。朝から自宅の掃除をしていた僕は、疲れていつの間にか眠りについてしまっていた。身体を起こし、コンビニに向かう。





玄関を出て、10分ほど歩き、現地にて食料を買い込み、帰路きろにつく。





途中、女性が数人の不良達ゴロツキに絡まれている場面に出くわした。





シーンそのものはこの街ではよくある光景である。ありすぎて眼にとどめる必要も無く、関わらないのが暗黙あんもくの了解でもあるのだが、何故かその女性に僕は一瞬釘付くぎづけになってしまった。





燃えるような赤い長髪が、頭の天辺てっぺんからひざの辺りまでれ下がっている。原色げんしょく豊かな色とりどりのアロハシャツのインナーに、夜の夕闇を宿やどしたような漆黒しっこくのジャケットを羽織はおる彼女は、常人じょうじんなら恐れおののくであろう状況にもかかわらず、紙煙草マールボロくわえてシニカルに笑っている。





ふと、家のかぎを閉めたかどうかが気になり、視線をさげてポケットをまさぐっていると、低くそして短い悲鳴が数名分聞こえてくる。顔を上げると、取り囲んでいた男達は皆々地にうずくまっていた。真っ赤な女性の姿はどこにも見えない。









「にーさん、美味うまそうなもんたくさん抱えてんね」




「?!・・・・・・君は」




「あたし?あたしはアミだよ、よろしく。ていうかにーさん、買出し?晩御飯の。男なのに料理とか出来ちゃう感じの人?」




「あれは、君が一人でやったのか」




「まぁね。ここじゃそれぐらい出来なきゃ安全に過ごせないと言うかなんというか。まま、そんな事はどうでもいいんだけどさ。にーさん、あたしちょっと運動したらお腹が減っちゃったよ。それ、少しでいいから分けてよ」




「もしかして今、カツアゲされてる?」




「違うよー、ったくケチだなぁ。一歩間違えばにーさんが絡まれてボッコボコにされて身包みぐるがされて海に沈められていたかもしれないのにさ。ちょっとぐらい食料分けてくれたっていいじゃんかよー」




「分かったよ、じゃあこれ。これならすぐ食べられるだろ」




「ありがとう!初対面の人間にカニカマを無償むしょうで提供するとか、聖人かな?ここに来るまで随分ずいぶん長い時間かかったからねー。身に染みるよ。あ、そだ。にーさんがちまたうわさのKMSの片割れの、ハジメさんだったりするのかい」




「そうだけど。なんだよ、君も女神の三十指の一員なのか」




「違うよー、なんでも決め付けはよくないよー。いやさ、にーさんがもしもだよ。もう片方のタカシって奴ならこの食料に毒物混入させるぐらいするんじゃないかなぁーって思ってさ。なんでも彼って医者の卵らしいじゃん。それもとびっきりに飛びぬけた才能の持ち主なんでしょ?流石のあたしも毒盛られたらやばいかなぁーって」




「タカシも知っているのか」




「この街でにーさん含めたお二人さん、今めっちゃ知名度高いから、誰でも知ってるんじゃないかな。三桁越えの賞金が掛かっているとか、ご存知でない?」




「高額なのはあくまでタカシだろ。それ関連の動画は視聴したけど、あくまで僕はオマケみたいなもんだ」




「ふーん。当事者意識は希薄きはくなんだね、相変わらず。まーいいや、食べ物分けてくれてありがとうね!」




「これからどこにいくんだ?」




「もう少しだけ、この街に滞在たいざいしてみるよ。探しているものが見つかりそうなんだ、やっと。にーさんも頑張るんだよ、じゃあね」




次の瞬間、女性は跡形あとかたも無く消えていた。先程までのやり取りが幻だと倒錯とうさくするくらいに、寸分たがわず消失していた。




改めて家路いえじを目指して歩き始めながら、ふと気づく。




なんか僕普通にしゃべってなかったか?、と。




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それから三日程して、タカシが戻ってきた。





「やぁハジメさん。やっと姫、いや妹さんの潜伏先せんぷくさきが特定出来たよ。それとついでだけど、三十指も残り4本までに減らしてきて、こちらも味方を何人か加えてきた」





曰く、放火魔・強姦魔・殺人鬼の肩書きを持つ3名が、我らがKMSに参入する運びとなった。





登場人物のキャラクター性が軒並のきなみ反社会的であるのはさておき、いよいよ妹と対峙する時が来たらしい。





明日未明、僕は彼女と出会い、何を思い何を感じ、どう行動するのだろうか。





残虐ざんぎゃくの限りを尽くした妹へ、しっかりと向き合う事ができるのだろうか。





このままいけば、彼女が捕らえられ凌辱りゅうじょくされもてあそばれ、死に至るのは自明じめいの理である。





本当にこれで、良いのだろうか。





それでも、







それでも僕は。







▽やはり妹は殺すべきだ



△それでも妹を助けたい





To Be Continued...▶︎▶︎▶︎Next【?】

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