第10話「みずはの悲劇」(お題D62『25%』より)
あうー……。
そんなマヌケな声を出したらカナメに思いっきり笑われてしまった。
私は半ば涙目になりながら、カナメを睨みつけた。
「だって、だって、2キロも太ってんのよ!?」
高校に入ってから初めての健康診断。太っているという自覚は無かったのだけれど、測定値は残酷な現実を叩きつけてくれた。
考えられる原因としては、生活環境がガラリと変わった意外に考えられない。それでも食べる量には常に気を使っていたはず。天理ラーメンや「デリバーガー」のハンバーガーだって、健康診断まで一回こっきりしか食べていないのに。
「なんでだろうね。私はみずはと同じものを食べてるけれどプラスマイナスゼロなのに。裏でこっそりおやつを食べてたりしない?」
「してないわよ……」
「ふむ、ますます謎だな」
カナメは首をかしげた。
ちなみにすずちゃんは、寮生活で規則正しい生活を送るようになって逆に3キロも減ったという。私に勝ち誇ったようなドヤ顔を向けたのは少し腹が立ったが、さらにこんな余計なことを言ってのけた。
「それって、幸せ太りってやつじゃね?」
唯一、私がカナメと同居しているのを知っているこの友人はことあるごとに私たちを夫婦に見立ててからかってくる。親戚二人が一緒に暮らしている、それ以上でもそれ以下でもないのに。
まあ、共同生活は良好だというのは間違ってはいないんだけど。でもこのままじゃダメになってしまう。2キロが4キロ、4キロが8キロ、8キロが16キロ……ガマの油売りじゃないけれど、傷口が浅いうちに手を打たないとブクブク太ってしまう。
「よしっ」
私は拳を握った。
「今日から私、食事の量を25%オフにする!」
「ええー?」
「ええー、って何よ。別にカナメは今まで通りの量を食べたらいいじゃない」
「無理してご飯を減らすと、かえって体に良くないよ?」
「いや、もう決めた。二度目の健康診断までに元の体重に戻すからね。カナメもご飯作るときは遠慮せず私の分を減らしてよ!」
「いつまで持つかねえ」
カナメは小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「わかったよ。明日ステーキを焼こうと思ったんだけどもっとヘルシーなメニューに変えるか」
「ステーキ……」
ちょっとだけ心が揺らいでしまったが、カナメはそれを見逃さなかった。いやらしいことに。
「あっ、今ためらったなー?」
「ためらってない!」
もう決めた。意地でも絶対に痩せてやる。次の健康診断は半年後だ。2キロ落とすぐらい簡単だ。
見てなさいよ、カナメ。
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