第3話「サボテントーク」 (お題D43『サボテン』より)
「ねえみずは。見てよこれ」
洗った食器を片付けている最中に、カナメがスマホの画像を見せつけてきた。そこにはトゲトゲした植物が映っていた。
「サボテン?」
「そう。伸二兄さんがメキシコで撮ってきたんだ」
カナメが伸二兄さんと呼ぶのは桐生家の次男坊で、二十六歳ながら現在メキシコ桐生商事の社長を任されている。私は親族のパーティで一度か二度話したことがある程度であまり印象に残っていないが、カナメ曰くきょうだいの中では一番のやり手なのだそうだ。
「みずは、このサボテンどう思う?」
「触ったら痛そう」
私は手を動かしながら答えたが、カナメにとっては不満だったようだ。
「情緒もへったくれもないなあ」
「じゃあカナメはどう思うの?」
「厳しい砂漠の環境ですくすくと大きく育った姿に生命の逞しさ、神秘を感じるね」
カナメはイキイキと答えた。本気でそう感じているようだ。
ちょうど片付けが終わったところだったから、私は逆質問をしかけてみた。
「じゃあ、サボテンって漢字でどう書くか知ってる?」
「え? 漢字?」
「もしかして知らない?」
「はっ、ははっ」
曖昧な笑みを浮かべたから、お察しだった。
成績優秀なカナメでも知らないことはあるのだ。
「サボテンの漢字か」
カナメがスマホで調べようとしていたから、止めさせた。
「まず自力で考えてみて」
「えー」
カナメは口を尖らせたが、しばし考え込んで「これだ!」と、壁に指で文字を書いた。
左 梵 天
「ブーッ。一文字もかすってません。仏様は関係ないです」
「えーっ?」
「正解はこう」
私は『仙人掌』と書いてみせた。
「ウソだろ!? これでサボテンって読むの? これこそ読みが一文字もかすってないじゃん。何で? 何で?」
「私に聞かれても困るわ。漢字当てた人に文句言って」
「まあ、掌を『てのひら』と読んだら若干『て』がかぶってないこともないけどさあ……納得いかないなあ」
カナメは首をひねりながら「お風呂入ろ」と言い残してダイニングを出ていった。
翌日、カナメは取り巻きの子との会話でサボテンの漢字ネタを振ったら結構盛り上がったとニコニコ顔で私に報告した。まあ何とちゃっかりしてることか。
私はネタ提供料代わりに、キッチンの掃除当番を代わってもらうことにした。
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