1-11
ミントティーを飲み終えて有紗は加納と一緒に店を出た。
外は日暮れが迫っている。結局、昼過ぎにカフェに入ってから3時間ほど滞在してしまった。
近くの恵比寿駅まで加納と肩を並べて歩く。有紗を気遣っているのか、加納は有紗の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれた。
恵比寿駅西口のえびす像の前で彼は立ち止まる。
『3180円』
「え?」
『今日俺が損した金額。あんたの面倒見るためにバイト3時間早く切り上げたんだ。給料3時間分減った』
「それは……ごめんなさい」
そうは言われても有紗にはどうすることもできない。
『だから3180円分、あんたが支払って』
「……はぁ? あの、それはちょっと……。確かに私のせいでお給料が減ってしまったのは謝ります。でも高校生からお金タカる気ですか?」
有紗は財布の入るスクールバッグを抱え込んだ。有紗の様子に加納が吹き出した。無愛想な顔しか見せなかった彼がこんな風に笑うのは初めて見る。
『金ならいらねぇよ。3180円分の埋め合わせをしろってこと。今週の日曜夕方くらいから空いてる?』
「空いてますけど……」
『じゃあ日曜夕方5時にここで待ち合わせな。日曜付き合ってくれたら3180円チャラにしてやる』
加納のペースについていけない。有紗は口を開けて放心していた。どうしてこんな展開になってしまったのだろう。
「……わかりました。日曜の5時にここで待ち合わせですね」
何故か無性に悔しくなって加納を睨み付けた。こんな無理やりな約束は理不尽だ。
でも加納の給料を減らした責任は感じる。迷惑をかけた分を償う義理はあると思う。
よくわからない言いがかりで、よくわからない約束をさせられてしまった。
帰宅して有紗は奈保に連絡を入れた。心配させたことを詫びてその後に起きた加納との出来事を奈保に語る。
日曜の約束のことを話すと奈保の声のトーンが興奮気味に変わった。
{それってデートのお誘いじゃない!}
「デートじゃなくて給料損した分の埋め合わせだから」
奈保は興奮していても有紗はいまいち日曜の約束が納得できず冷めている。
{バイト代はただの口実よ! やっぱりねぇ。あのサブカル風のイケメンな店員さんでしょ? あの人、前から有紗のこと気になってるんじゃないかって思ってたの}
「ええー? あいつ私に対してめちゃくちゃ態度悪くない?」
{好きな子には素直になれないタイプの人かも。あの店員さん、有紗のこと好きなんだよ}
奈保の爆弾発言に有紗は固まった。
「いやいやいや! 絶対ない! ありえない! ヤダッ! あんなムカつく男絶対ムリ!」
{お、動揺してるね?}
「してないっ!」
携帯を持ったままベッドにダイブし、赤くなった顔を枕に伏せた。奈保の笑い声を耳元で聞きつつ、有紗は無愛想な加納が見せた笑顔を思い出していた。
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