証拠


「邪魔をしないでください!!」


 安藤の剣を鎌で食い止める墓守。


「そんな感情的になるな。キミはなんの大義名分があってその剣を振るうんだい?」


「そんなの決まってますっ……王国に仕えるために──!!」


「違うな」


 交えていた剣を離し、お互い後ずさる。


「キミの攻撃には正義が宿ってない。まるで子供が玩具の剣を振り回すようにね」


「あなたに何がわかるんですか!」


「わかるさ──今まで沢山の勇者をみてきたからね」


 対峙し合う二人。



「安藤……もうやめよう」


 滝沢が言った。


「滝沢さんまで……どうして!」


「もう一度問おう。なんのために、勇者になったんだ?」


「それは……」


 安藤の視線が揺らいだ。

 恐らく、自分でも心のどこかで気付いていたはずだ。



「……理由なんてなかったんだ。最初から利用されていたんだよ、俺たちは」



 場内を見回した。

 観客たちの視線が集中している。


 その中で、滝沢は言い放った。



「──皆の者、どうか聞いてほしい!」


「王女は誘拐されたのではない──王女は、殺害されたのだ!!」


 場内がざわめき出す。


「犯人は二人いる。一人は、ここに倒れている騎士団長──そして、この事件の首謀者は──!」


 二階席の、王座に座る老人を指差す。



 国王は、ふん、と息を鳴らした。



「でたらめを……何の証拠があって、貴様はそれを言うのだ?」


「証拠ならある──!!」



 ポケットから取り出したのは、髪の毛の束。

 あの日、森の中で掘り起こした王女のものだった。



「この髪は、王女のものだ。そして、この証拠を持ってきたのは──」


 後ろで、歩く音がした。


 広間の砂利を鳴らしながら、向かってきたのは──メイド長だった。



「証人は、私であります」


 メイド長は言った。


「三週間前の夜──廊下から、悲鳴のようなものが聞こえました。私は慌てて駆けつけたのですが、物陰に隠れました。王女の部屋から出てきたのは、二人の人物でした」


「王様と、騎士団長様であります。二人は、血塗れの王女を抱え、廊下で王女の遺体を袋につめ、王の寝室へ運び込んだのです」



 さらにざわめきを増す場内。


 そう──あの日、メイド長を脅迫して一芝居打つように要求したのだ。

 まるっきり、嘘の証言。



「戯言を抜かすな!」


 王は立ち上がり、柵に前のめりになるようにして言い放った。


「そのメイド長もグルだ──! 悪の勇者に加担しているのだ!」



「いいえ、私は、血塗れの王女を寝室に運ぶところを目撃しています」



 安藤は、何が起こっているのかわからない、といった表情で辺りを見回している。



「皆様、静粛に願います──ッ!!」


 そう言い放ったのは、王の隣に位置する席──王族の一人、第3王子だった。


「この場は、王位継承権2位のわたくしが改めます! ……それでよろしいですね? 父上」


「くっ……貴様、なにを……っ!」



 そう、全て計画通り──。


 第3王子も、メイド長を通じて協力者に仕立て上げたのだ。

 王女が居なくなった今、王が逮捕されて、この国を牛耳る権利と引き換えに。



「秘書官よ、王の寝室を捜索せよ!」


 第3王子がそう言うと、王の隣で座っていた秘書官が起立して、すぐに王城の元へ向かう。



 情報屋によると、王の寝室に入れるのは、王、秘書官、メイド長の3人のみ──。



 しばらくして、慌てふためいたように戻ってきた秘書官が、声を張り上げた。


「し、寝室にて、王女の遺体を発見いたしました──ッ!!」


 貴族たちのざわめきが最高潮に達する。


「そ、そんな……」


 安藤は握っていた剣を地面に落とし、愕然としていた。



「い、陰謀だ──!! 全て誰かの陰謀に決まっている!!」



「陰謀か……それをやったのはあんたの方じゃないか。たしか、こうだったか──?」



 滝沢は、ゆっくりとそれを口にした。



『お前は私の子だ。私がやってやる──』



「な、なぜそれを……」


 王は膝から崩れ落ち、体を震わせた。



 全て、計画通りに事が進んだ。


「兵達よ──!! 国王を捕縛せよ!!」



 第3王子がそう言うと、兵たちは、王の腕を後ろに回した。

 よろよろとその場を退場する王の後ろ姿を、誰もが見守っていた。



「どうやら賭けには勝ったようだね、勇者くん」



 墓守がにやついたような表情で言った。



「ああ……」


 その場で膝をついて愕然とする安藤を横目にして、言った。



「帰ろう」


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