勇者の理由
その日、滝沢は町に出てきた。
あまり外を出歩くのは得策ではない。
なにしろ、あれから数日が経ち、町の至るところに滝沢の指名手配書が貼り付けられているのだ。
もし、王国の兵士に見つかったら、その場で捕まえられるだろう。
しかし、これは計画の一端。
滝沢はしばらく路地裏の影に隠れて、ひっそりと目的の人物を待っていた。
1時間もしないうちにやってきた。
大通りに、大剣を背負う安藤の姿を発見した。
幸い、今日は兵を連れていないようだ。
「安藤」
適度に聞こえる距離から、声をかけた。
彼女がふりむいた。
滝沢の姿を発見するや否や、そそくさと周りを確認して、こちらに向かってくる。
「こんなところで何をしているのですか、滝沢さん……!」
小声ながらも、慌てた様子だった。
「久しぶりだな」
滝沢はフードを脱いだ。
この路地裏なら、人も通らない。
「あなた、指名手配されているんですよ?」
「知っている」
「……私には、この場であなたを逮捕する権利があるんですよ」
「分かっている」
……。
すると、はあ、とため息をつき、彼女は少し諦めたかのような表情に変わった。
「あなた、なにをするつもりなんですか」
「おまえ、表情が豊かになったな」
「そんなことを話している場合じゃありません!」
すると、安藤は真剣な表情へと変わり、
「──出頭してください、滝沢さん」
真っ直ぐとした眼差しでそう言った。
「戻ったら殺されるんだぞ?」
「それは知っています。だから、私が王様に直談判をして……」
同じ異世界から来た者同士、彼女の心のどこかで少し情がわいているのかもしれない。
この場で自分を逮捕しないのが、その証拠だ。
「おまえ、なんのために勇者やってる?」
「それは……王様に仕え、一刻も早く王女の救出を……」
「違う」
言いたいことは、そうじゃない。
「なんのために、この世界にきて勇者になったんだ」
安藤は黙り込んだ。
本質を突かれた、そんな表情でその場で立ち尽くしている。
滝沢はフードをかぶり、踵を返し、言った。
「王に伝えてくれ。公開処刑の日に、必ず戻ると──」
そうして、路地裏の奥へ歩いていった。
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