スクロール
まずはこの世界の魔法について調べる必要があった。
町の大通りに面している、とある魔法武具店に入った。
「いらっしゃい」
鎧や剣など、様々なものが売られている。
しかし、滝沢の目当てのものはカウンターの横にある小棚。
「親父、このスクロールはなんの魔法だ?」
カウンター越しに座る店主である中年の男に話しかけた。
「これはライトニグの魔法だな。雷系統は強いから値段も結構張るが、買うのか?」
「いや、これはいい。他には──」
店主は、この世界の文字が読めない滝沢のために色々なことを教えてくれた。
スクロール、その巻かれた古紙には魔方陣が描かれている。
開いて魔法名を口にすることで、魔法が発動されるというものだった。
安いものにはファイヤーボール、アイスアローといった初級位魔法があった。
上位級魔法のスクロールはフレイムストーム、ニブルヘイムといったものがあるが、これは相当な値段がするようで手が出せない。
「ありがとう」
買い物はしなかったものの、情報は得られることができた。
滝沢は店をでた。
人々の雑踏に紛れながら、道を歩く。
このフードをかぶっていれば、まず面が割れることはないだろう。
手の聖印は、ローブの裾で隠しているから自分が勇者だとばれることはない。
滝沢は前方から見覚えのある人物を察知した。
すぐに裏路地に隠れ、その様子をうかがった。
目にしたのは、大剣を背負った安藤の姿だった。
先頭を歩く安藤の背後には、十数人の兵が二列に隊列を作って歩いていた。
……もしかしたら、脱走したことはもう知られているのかもしれない。
早めに宿を取ることにしよう。
滝沢は安藤たちが過ぎるのを待ってから、宿探しに向かった。
宿屋の料金は1日8銅貨。前払い。食事なし。
部屋はわりと綺麗なほうで、一人用サイズのベッドと、小さなテーブルが備え付けられている。
「……さて」
滝沢はベッドに座り込むと、手を組んで考えはじめた。
──これからの計画を練らなければならない。
国王、殺害、隠蔽、メイド長、貴族、騎士団長、墓守、戦闘屋──
いくつものワードを巡らせながら、その日は一晩中思考していた。
頭痛がした。
……ちょうどいい、1つ聞いておくことにしよう。
「あなたの死体は今どこにあるか分かりますか」
「……分かりません。殺された後の記憶がないので」
「そうですか。ありがとうございます」
それだけ聞いて、滝沢は沈黙した。
……さて、どうするか。
ポケットの中から、1枚の紙を取り出し、滝沢はそれを見つめた。
『何か困ったことがあったらこの人物を尋ねるといい』
文字が読めない自分のために、わざわざ地図まで書いてくれている。
──よし。
その夜、滝沢は、紙に記された場所まで行くことにした。
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