第10話 旦那様、疑われる
ある日、テレビを観ているとあることに気がついた。
最近自然災害が多い。
一番最近だと、集中豪雨、地震、火山活動の活発化、気温の変動…
最近というより、この10年くらいそうかもしれない。
私が小学生の時は、季節も安定していたような気がする。
「………」
やめよう。
私が考えても何も変わらない。
私に過去や未来を変える力はない。
もし変えることが出来るのなら、それは自分自身だ。
「さてと。」
今日は何しよう?
休日なので、久し振りに家の掃除でもしようかな。
旦那様はここ数日帰宅していない。
あ。なら、先に旦那様のお部屋だけでも掃除してしまおう。
私達は夫婦だけど、別々の部屋にあてがっている。
一番の理由は私自身に問題があるからだ。
それと、旦那様は仕草から高貴な方と思われるため、私と同じ部屋で過ごされるのは多少気が引けた。
部屋は余るほどあるのに、住む人が二人だけというのも勿体無いとは思う。
家を持つのは、私の夢だったから、独りでも暮らせるだけの広さだけでなく、来訪者や急に泊まる人がいてもいいように部屋を空けている。
家パーティを開く訳でもないのに、そんなこと考えてしまうのは、考え過ぎだろうか?
それでも、旦那様と二人だけの城、という意味では買って良かったとさえ思う。
旦那様の部屋に入る。
寝床と、鏡だけの部屋であるが、クローゼットが部屋についているので、服の解れや汚れがないか、ひとつひとつ点検する。
うん、ホコリ一つない。
綺麗だ。
だけど、あのローブがないので、旦那様いつも持ち歩いていらっしゃるのかもしれない。
あ、この服使ってないのかもしれない。
好みじゃなかったかな?
今度一緒に買いに行こうか、などと考える。
掃除が一通り終わり、台所に立ったとき、スマホが鳴った。
あけてみると、なんと、えりさ先輩から連絡が来ていた。
一体どうしたのだろう、と思っていると
『ストレス溜まったので、食事でもどう?』
ということだった。
先輩、何があったんだろう。
首を傾げながら私は返信した。
後日、先輩と予約したお店に来ていた。
「急に連絡ごめんね。この前仕事してた子の連絡先、知ってるかも思って。」
先輩は髪の毛を下ろし、水色の春のワンピースを着ておられた。
ここで御自分の豊満な胸を強調するかのように、襟開きのものを選ぶとは、女の私でもちらちらと見てしまいそうになる。
「エリちゃんですよね。」
「そうそう。何か途中まで覚えてるんだけど、登録されてなくって。」
「聞いてみますね。」
この前仕事で仲良くなったエリちゃん達とは、お互いに連絡先を交換していた。
あまり連絡することは少ないけれども、また会いたいね、ということもあって。
言い出した先輩は、見事酔い潰れてしまわれたけれども。
「それより、何かあったのですか?」
バイキング式のレストランで、サラダの種類から麺類、肉、魚まで、何でも揃っていた。
話しながら食べたいものをお皿に取っていく。
「実は、私今接客の仕事してるんだけど、クレームが多くて…」
それは、大変だ。
気に入らなければ、いちゃもんつける人が多い。
「今度ゴールデンウイークがあるから、辞めたくて仕方ないの。
クレーマーは皆私のとこへ来るし、何でも『はい、はい、そうですか。すみません』なんて、私達の立場から言えないじゃない?」
確かに。
どうして派遣社員にクレーマー対応させるんだろう。
「どんなお仕事なのですか?」
「とある有名企業のチェーン料理店でね、色んな人が来るのよ、本当。」
ほうほう。
先輩話を頷きながら、焼いた鮭を一品加える。
「そこの店のオーナーが、腰抜けの男でね、すぐに下手に出るもんだから、お客がつけあがっちゃって」
なるほど。
「いますね、そういう人。」
「常連さんらしいんだけど、クレームが酷いのよ〜〜!」
子どもの声がうるさい、禁煙席なのにすぐ近くに喫煙席になっているのはどうなってるんだ、店が汚い、働く人も汚い、あそこの席は暗いからだめ……
「ピンからキリまで挙げれないんだけども、兎に角色々細かい客なのよ〜〜」
アレルギーあるから魚料理は出すな、扉が閉まらん、並んでいたのに横入りされた、看板が読めない、メニュー表は小さい、荷物袋くらい作っておけ等々
聞くだけでげっそりするような内容だった。
「ねぇ、常連だからって何?
『俺が来なくなるだけで、この店は成り立たなくなるんだ』って脅かしちゃって……!!
あ~〜〜〜思い出すだけでも腹立つわ〜〜!!」
うっわー
それを全部任されるのは、キツイ。
「あの男、ぜーったい私の身体を狙ってる。いつも目をギラギラさせて、舐めるように私を見てくるのよ!あーゆー男がいっちばん腹立つー!!」
激おこプンプン丸ということですね。
先輩の頭が噴火したら、そのお店は大丈夫だろうか?
「一回先輩から注意したらどうです?」
「それが、出来たら苦労しないわよ。」
私達は席についた。
「『お客様だからね。やんわりとね。えりさちゃん。頼むよ。』って、オーナーに言われたら、逆らえないじゃない?」
女の人が働く世の中であっても、男性社会である日本は、全体的にまだまだ働き難いと感じるのも、そういう身勝手な人がいるのも一因になっているかもしれない。
悔しそうに先輩の愚痴が30分続いた。
私がうんうん、そうですよね。分かりますよ!と言っているうちに、先輩の気分は晴れてきたようだ。
「ゆいちゃんの仕事はどう?」
「私、今度自宅で包装の仕事を請ける事にしたのです。」
「あ。いいね、それ。テレビ観ながら、お酒も飲めるし、仕事も出来る。一石三鳥くらいあるわね。」
先輩は生ハムにチーズを乗せて口に入れた。
「私も次はそっち系にしてみようかな〜。研修期間であと3ヶ月は働かないといけないから、やんなっちゃう!」
ビールでもないのに、先輩はお茶を一気飲みする。
「ところで、その後どう?」
「何がですか?」
「旦那のことよ。」
「相変わらずですよ。」
何故だか、先輩が嫌な顔をする。
「なんの進展もないわけ?」
「うーん」
そう言われても。
変わったことと言えば。
「最近はお忙しいみたいで、家に帰ってないということ、くらいですかね。」
先輩が持っていたフォークを床に落として、口をあんぐり開けた。
折角の美貌が台無しですよ、先輩。
「何ですって?」
そして、私の言葉を反芻する。
「帰ってきてないですって?!」
「いつものことなので、気にしてませんけど…」
先輩は私の肩をしっかり掴んだ。
「気にしなさいよ。少しは気にしなさい。」
「一週間帰ってこないこともありますし…」
困った。
どう答えたらいいか、分からない。
「一週間?!」
先輩は椅子にもたれて、呆れ顔で私を見た。
目を大きく見開いて、瞬きを何度も繰り返す。
「あなた、あなたね、一週間旦那帰って来なかったら、外に女を作っているんじゃないかって、疑いなさいよ。」
疑う必要もないと思うんだけど。
なんとなく居心地が悪い。
「分かった。言いにくいんなら、私から直接言ってあげようか?」
先輩の剣幕に押されて、結局私は「はい」と答えるしかなかった。
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