第9話 闇

 何もない闇の中で、男女が向かい合うようにして立っている。

 2人とも格好は同じで頭から足先までの長いローブを纏い、頭から眼深にフードを被っている。

 体格がしっかりし、背の高い方が男だと分かる。

 女は男より背が低く、その体型は不明瞭だ。

 男女は暗闇の中にいても光っており、その姿はしっかりと捉えることが出来る。

 「それで、話はしたの?」

 女の声が響いた。

 「……した。」

 「答えは出た?」

 「どうやら、『人間』に『会話』は必要らしい。」

 「そう。」

 女は素っ気ない。

 元々男に対して、慇懃無礼な態度を取る女だ。

 それでも、男には女が必要だった。

 「私達は『人間』ではない。」

 「そうね。」

 「本来であれば『会話』は不要だ。」

 「そう。でも………」

 男の頭の中から女の声が聞こえた。

 (『人間』にはが出来ない)

 (私達にはがある。)

 (『人間』には『会話』が必要よ。)

 (だから『会話』しろというのか?)

 「あら、分からない?」

 女は何処か男を見下す。

 しかし、男は見下されても悪い気はしない。

 「どうして『私達』にも『口』があると思う?

ただ、飲んだり食べたりするためのものじゃないわ。」

 クスクス、と女は嗤った。

 「それに『会話』以外にも、時に必要な場合があるのよ。」

 「……なんだ。それは?」

 女は口を歪めて、にいっ、と嗤った。

 「教えない。」

 (自分で見つけることね。)

 女の姿はふっ、と消えた。

 後に残された男は、現実に戻っても考えるしかなかった。

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