第8話 飲み会のあと
先輩は旦那様の背中に負ぶさり、ぐーぐー寝ている。
昨日は気づかなかったけれど、先輩の宿泊先は私達と同じだった。
旦那様はやはり笊で、団長さんが酔ってしまうまで飲んだみたい。
「何杯飲んだのですか?」
旦那様は指折り数えた。
「…10杯くらいか。」
「気分、悪くないですか?」
「大丈夫だ。」
笊と知っていても、旦那様まで酔いつぶれてしまわれたらどうしよう、と思っていた。
夜の道は風が通って、お酒の席の喧騒を冷やしてくれるかのようだった。
それから私達は黙って夜の道を歩いた。
先輩は時々ゴニョゴニョ言っていたが、声が小さ過ぎて何を言っているのか聞き取れない。
旦那様はしかめっ面して、背中でもぞもぞ動き出す先輩の体勢を整えるために、何度か立ち止まった。
「すみません、負ぶって頂けて。」
「大丈夫だ。」
私は先輩の荷物と自分の荷物を持って歩いた。
ホテルに到着し、先輩の部屋にホテルマンの方が案内して下さった。
部屋を開けてもらって驚いた。
荷物は私が手に持っているものだけだった。
旦那様は先輩をベッドに下ろし、私は布団を掛けた。
黙って帰ってしまうと失礼かも、と思い、部屋のメモを1枚使って、一言添えた。
私達が部屋に戻る頃には、とっくに真夜中を過ぎていた。
旦那様に先にシャワールームを使っていただき、私は明日ここを出る準備を整えた。
仕事の資料に目を通して今回の仕事の内容の報告を書き込む。
その中に、面談の資料が混ざっており、カレンダーを確認すると2週間後に面談が予定されていた。
具体的にどんな仕事に就くか、そろそろ考えた方が良さそう。
あくびが出て、ウトウトし始めた頃、旦那様が出てこられた。
目を擦り、旦那様をぼんやり見ると、何故だが眉間に皺を寄せて、不機嫌なお顔をされていた。
旦那様もお疲れなのかもしれない。
私はあくびを堪え、シャワールームに入ろうとすると、旦那様に呼び止められた。
「どうされました?」
「……聞きたいことがある。」
「何でしょう?」
眠い眼を一生懸命瞬きして、旦那様の話を聞くために、椅子に座った。
「会話は必要か?」
突然何を言い出すんだろう?
会話…会話………
うーん、つい最近も似たような話を、誰かと話したような気がする。
眠気で靄のかかった頭を必死に回転させて、私なりの答えを出す。
「会話は、必要だと思います。」
「何故だ?」
「言わないと分からないことも、沢山ありますから。」
旦那様のように、人との会話を必要としない存在もあるかもしれない。
けれども、人である以上、私達は会話をしないと成り立たない部分が沢山ある。
例えば今回の仕事のように、コミュニケーションを取りながら、互いにアイデアをだし合って、より良いものにする必要だってある。
けれども、全てを鵜呑みにすることはできない。
人は嘘をつく生き物だから、何処まで本当で嘘なのか、判断する必要もある。
それでも
「人は一人では生きていけませんから。」
私なりに一生懸命答えを出して、旦那様にお伝えすると、旦那様は腕を組んで何か考え始めた。
……もういいのかな?
旦那様の様子を見て、私はあくびを堪えながら、シャワールームへ入った。
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