第5話 いつの間にか旦那様

 「今日は会場作りをお願いします。」

 派遣会社から依頼を受け、私は明後日に開かれる、アマチュア吹奏楽団のコンサート会場に来ていた。

 楽団から楽器が送り込まれ、次々と舞台裏へ搬入していく。

 私は裏方の仕事を割り与えられた。

 楽団が使用する衣装の数は膨大で、同じ仕事仲間の中から「げっ」といううめき声が聞こえた。

 「有名な団体らしいっスよ」

 頭を金髪に染めた若い男の子の隣に、色白の美人で抜群のスタイルを持った女の人が立っていた。

 女の人とは仕事上で何度かお会いしたことがあり、私は勝手に「先輩」と呼んでいた。

 どうやら「げっ」といううめき声を漏らしたのは、先輩らしい。

 顔を青くしている。

 「いや、でもねぇ、だからといってこの服の量多すぎない?

こんなに着替えるものなの?」

 「曲目や演題に分けて、着替えるらしいっスよ。」

 「えええ……」

 先輩は肩を落とした。

 「ということは、どの曲で運び出すのか、僕たち覚えないといけないですよね。」

 ぽっちゃりとした男の子が話しかけてくる。

 「そうね。私覚えられるかしら?」

 はぁ、とため息をついたのは私だけではない。

 その場に居合わせた全員が同じ思いをしたに違いない。

 「やるしかないか。仕事だしね。」

 げんなりしていても、やる時はやる。

 それが先輩だ。

 「よ、アネさん、かっけー!!」

 拍手を送るのは、金髪の男の子。

 私とぽっちゃりとした男の子は、指示された内容の確認をして、何着衣装があるか、数え始めた。

 黙々と作業を続けていると、つんつん、と肩を叩かれた。

 「ねぇねぇ、あの人、何処の誰か分かる?」

 先輩はひっそりと指をさす。

 表舞台に照らす照明器具を点検している、私の旦那様だった。

 「あ、私の旦那様です。」

 「え?あなた、結婚してたの?」

 「え。はい。」

 「ちょっとー、それ、早く教えてよ!」

 一応先輩の連絡先は知っているが、私は連絡しなかったっけ?と首を傾げた。

 「いつ結婚したの?」

 「ええっと…」

指折り数えると、一年くらい経っていた。

 「なんでもっと早く教えてくれなかったよ〜」

 「せんぱーい、また荷物が届きましたー。」

 ぽっちゃりとした男の子が私を呼んだので、私はそそくさと走った。

 「荷物って、これだけ?」

 「んー、これ、どうしたらいいでしょう?」

 よく見ると金具のようであるが、楽団の人たちがまだ到着されていないので、楽屋に運ぶことにした。

 「譜面届きました〜」

 「おーい、打楽器運ぶの手伝ってくれー」

 「また衣装が来ました〜」

 あちこちで呼び出しを食らい、ひと息ついたのは、楽団の人達が到着してからだった。

 

「お疲れさま〜」

「お疲れー」

陽が沈んで夜になり、私達はそれぞれ宿泊施設へ向かった。

 私は旦那様と一緒に歩いて、宿泊施設へ向かった。

 そういえば、旦那様はいつの間に会場へ来られたんだろう?

 今朝家を出たのは、私ひとりだった。

「あ、ここみたいです。私達の泊まる場所」

 会場近くにあるビジネスホテルだった。

 ここから数日通うことになる。

 ホテルにチェックインすると、はて、とさらに首を傾げた。

 私はホテルへ荷物を先に送っていたのだけれど、旦那様の荷物まで届いていた。

 まあ、人でないお方の仕業でしょうから、何も言わないでおきましょう。

 深く詮索すると、色々ややこしくなりそうで。

 私達は共に部屋に入り、明日のために早めにベッドに潜った。

 

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