第4話 夫婦になった経緯?

 時々こういう質問をされる。

 「二人の馴れ初めは?」

 私は困ってしまう。

 初めてお会いしたときのことはよく覚えているが、いつから旦那様に惹かれたのか、分からない。

 気が付いたら結婚していて、一緒に住んでいた。

 それから、旦那様が『人ではない』ということは、他人には言えずにいる。

 存在しないはずのモノを、今の人達は信じようとしないから。

 なので、私が異空間へ連れて行って下さることも、人に話さない。

 差し障りない程度からお話している。

 初めてお会いしたあの時、私は街を歩いていた。

 旦那様は頭から足先までのローブを羽織り、眼深にフードを被っておられていた。

 その存在に私が気がつくと、突然周りの景色が変わり、宇宙空間となった。

 私は驚いて、その時は足が竦んでしまったが、同時に戸惑った感情が私の中に流れ込むように読み取れた。

 眼深で顔はよく見えなかったが、彼が私を見ているのは確かだった。

 その戸惑った感情は私のではなく、彼から発しているとすぐに分かった。

 そして周囲にいた人はいなくなり、彼と私だけ取り残された空間となった。

少しずつ私がその空間に慣れ、足を踏み出してみた。

 地にしっかりと足がつくのが、はっきりした。

 これが現実であると認識するようになると、驚きよりも興味が湧いて、改めて周りを見回してみる。

 ひとつひとつの小さな銀河系が集まり、くるくる光りながら回っている。

 時々流れ星が起こったり、小さな爆発が起こって星ができる様を見ることができた。

 そして、太陽系は何処だろう、と考えながら歩いていると、彼が近寄って指を指した。

 銀河太陽系は本当に小さかった。

 掌におさまるほどの大きさで、その中に地球があると思うと、自分の存在がちっぽけに思えた。

 彼は不思議そうに私を見つめ、私は宇宙を不思議な気持ちで眺めていた。

 それが、私と旦那様の初めての出会いだった。

 それから彼の存在を認識するようになると、景色が変わるようになった。

 殺風景な延々の砂漠地帯や、生き物の気配のない白い平原や海の中に立っていることすらあった。

 彼は私に興味が湧いたようで、私の反応を見ながら色々な景色に変えた。

 そうこうしているうちに、ある時緑とも翆ともつかないような平原の上に立った。

 鳥が飛び交い、風は冷たく心地よい。

 空にはキラキラ輝く星空が広がっていた。

 その美しい光景に驚き、感銘を受けて私は彼にお礼を言って頭を下げた。

 すると、それまで被っていたフードを彼が払い、初めて彼の顔を見た。

 綺麗な人。

 それが第一印象だった。

 髪は腰まで伸び、銀とも白とも言い難い色合いに、双眸の眼は蒼く透き通っていた。

 顔立ちは整っているが無表情で、その立ち姿で私に目を向けていると、睨まれているようにも見えた。

 しかし、頬はほんのりと紅く染っており、瞳は困惑と興味とが入り乱れていた。

 私は両手を口に当てて、その出で立ちに驚いた。

 名前を名乗り、再び頭を下げて微笑むと、彼は細い目を開いて、ぷいとそっぽを向いてしまった。

 恥ずかしいような、照れくさいような、複雑な感情が入り乱れて私の中へ流れてきた。

 私は思わず笑った。

 そして、持っている彼の感情は人とさして変わらないことを知った。

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