第3話 私と旦那様
旦那様はとてもお忙しい方である。
私が家に帰っても、いないことの方が多くて、きっとあちらでの世界で何か大きな仕事をされていらっしゃるのでは、と思う。
私は独りでの生活にすっかり慣れてしまっているので、旦那様がおられなくても生活に支障はなかった。
旦那様は特にご病気もなさらず、不平不満も漏らさない。
そして私達二人の間に会話の必要はなく、あの空間へ連れて行って下されば、互いの気持ちが手に取るように分かるので、夫婦関係も悪くない。
ただ、いつもお帰りになるのは突然なので、いつでも二人分の食事だけは用意している。
もし、旦那様がお帰りになられなければ、私がその分食べれば問題ないし、冷蔵庫や電子レンジを使えば、ご飯を準備しておくくらい、気にしていない。
ただ、旦那様は電子機器の使い方が苦手のようで、ご飯を温めるのは私が対応していた。
特に「美味しい」とも「まずい」とも言わず、黙々とお召し上がりになる。
そしてご飯の後は、あの空間へ誘って頂き、私の歓声を見ては微笑んで下さった。
旦那様は、ただ、私を笑顔にしたいだけなのだ。
そういう気持ちが分かるから、私自身旦那様への不満はなかった。
いつもニコニコして、旦那様をお迎えし、送り出していればいい。
旦那様はどんなにお忙しくても、何日家を空けていても、必ず帰って来られる。
それを信じて私は待っていられる。
それに、私も派遣の仕事をしている。
時々泊り込みで仕事をすることもあるけれども、この仕事は私の今の生活に合っていた。
そんな生活をするようになってから、一度も悲しい思いをしたことがない。
そのことに旦那様へ感謝する。
今日も異空間へお連れ下さった。
空は満天の星空で、私達は宙を浮いているが、足は確かについていて傍には大好きな旦那様もいらっしゃる。
星空を眺め、はしゃぐ私を見て、旦那様の無表情な顔は綻んで、微笑んでいらっしゃった。
「ありがとう御座います」
言わなくても伝わると分かっていても、やっぱり口に出してきちんと伝えたいと思う。
旦那様は頬をうっすら紅くし、そっぽを向く。
そんな時間が私にとってはとても大切で、幸せだな、と思った。
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