第19話 「宿屋へ」


 帝国領地に戻ったオネストは待っていたエミリアに迎えられた。


「どうだった?それになんか叫び声が聞こえたんだが」


 顔を覗き込むその表情は、瞳が潤むほど心配をしている。


「あぁ、大丈夫だ」


「…そうか」

彼は生返事をしたが、エミリアはどこと無く腑に落ちない表情を浮かべている。

叫び声と、オネストの表情。

もう一度らなにがあったのかを問いたいが、彼は大丈夫だと言った為に、これ以上詮索するのは良くないと思い、エミリアは口を閉ざした。

そんな表情を察したのか、オネストが話しかけた。


「今日遅い、明日になったら作戦について聞きに行こう」


「えぇ」


そう話したオネストは、先に歩き始めた。

エミリアに見向きもせず、ただ前だけを見つめて。


しばらく歩くと街中には宿屋が点在していた。

深夜だと言うのに、まだ灯りがついている所が多い。

それに宿だけではなく、飲食店など数店舗だが、灯りがついている。

元々の街の大きさが伺える。

だが、帝国領地側と比べ、王国領地側は住民が、全員避難したのだろう。

既に暗闇に包まれている。

帝国領地のお店の灯りが、僅かながらに、王国領地の建物を照らしている。


それ故か、王国領地はどこか重たい雰囲気を醸し出している。


「1番安い宿屋でいいか?(私までお金を気に掛けてきてる…)」


「あぁ」


そうエミリアが、案内したのは二階建ての宿。

建物の入口から既に中からの喧騒が聞こえる。

中に入ると、テーブルに座っていた客が2人に視線を向ける。

そんな視線も意に介さず、2人は受付カウンターに向かう。


「いらっしゃい!」


そう言う店主は痩せ型の男性、頭は坊主にしている。


「一泊したいんだが」


「良いタイミングだね、丁度2人部屋が空いた所なんだよ」


その店主の返事に、エミリアは驚きを隠せない。


「ふ、2人部屋!?ひ、1人部屋は人数分空いてないのかっ!?」


「生憎、一人用は全室埋まっているんだ、今は空きは2人部屋しかないんだ。すまないね」


「エミリア、空いてないものは仕方がない。それで料金は?」


「2人部屋は3500オロだよ」


「(いや、仕方がないのは分かるが、私はこんなラッキースケベの変態と一緒に一夜を共にするのが、嫌なだけで…前は下着姿だったが、今回は…)」


「分かった、3500オロだな」


そう言うと、カウンターの上にお金を置いた。


「すまないね」

店主は支払いを確認すると、部屋の鍵をオネストに手渡した。

「2階の一番奥の部屋だから」


「分かった」


オネストが2階に向かおうとした時、突然エミリアが店主に聞いた。


「その!部屋には《風呂》はあるのか?」

突然の質問に思わず、店主は目をまん丸とさせて答えた。


「あぁ、もちろんだよ。ごゆっくり」

店主はエミリア微笑みかけた。


「そ、そうなのか…(ダメだ、いや。風呂には入りたいが、オネストのラッキースケベ能力が…)」


エミリアの表情はどことなく浮かない表情と共に、不安気な表情を浮かべていた。


















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騎士団なんて儲からない!傭兵になったけど苦労するし恋愛もしたい! もかめ @mokame

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