第18話 騎士団長とオネストの戦い
そんな沈黙を切り裂くかのようにフィンが話した。
まるですべてを諦めるかのように。
「もうやめてくれ…… 」
その声にオネストやアダリズが注目する。
フィンは半ば泣いている、自分を含めた友人たちが争うのを見たくは無いのだろう。
「今やオネストは敵国の一『兵士』だろ?勝手に殺したら大事になるぞ!?裁きたければ僕を裁け! 」
必死の主張を嘲笑うかの様に、反論する。
「ふふっ……フィン…ふざけるな!今がまたと無いチャンスでは無いか!ここで
そう言うとオネストの方を向き直した、左足を下げて腰を落とし、携えている剣を引き抜き、その瞬間一気に間合いを詰める。
咄嗟にオネストも足を開き、腰を落として踏ん張り。
そして剣を抜く。
剣からは火花と、そして少し押されたせいで地面からは僅かに砂埃が舞う。
だが、オネストの剣先は鞘から抜ききるには至らなかった。
かろうじて斬撃を防いだが、左手で鞘を持ち、そして右手で柄を握っている状態で防いでいた。
アダリズの剣先は既にオネストの頬の近くにある。
「ふふっ…傭兵になって実力も落ちたんでは無いか?」
微笑み掛けるが、目は殺気立っている。
「……ッ! (こんなにも速いとは…)」
そう思った刹那、オネストは体重をかけ、押し返した。
反動を利用し、オネストは鞘に残っていた剣先をようやく抜くことが出来た。
相手との間合いを取る為に自分も下がり剣を構える。
アダリズも態勢を整えて、剣を構え直した。
オネストは足に力を込め、地を踏みしめ、切り込んだ。
剣の振りが余りにも速かったのだろう。攻めの体制を取っていたアダリズは、今や守りに徹している。
(ッ! は、早い!)
4回目、5回目と続くオネストの攻撃を次第に見切り始めたアダリズは、今までとは違う動きをした、剣で攻撃を防ぐ所をしゃがみ込み、そして懐に入り込む。
(しまった!)
ここまで来たら、生かすも殺すも自由だ。
だが、アダリズはそのまま背後に回り込み、振り返ると同時にオネストの首元に剣を向けた。
「剣を捨てろ」
オネストはゆっくりと腕を伸ばして剣を落とした。
アダリズは落とした剣を眺めた。
「今だに、この剣を持ってたんだな」
「あぁ…」
「やはり王国に未練があるのか?」
「いや、無い」
「なら、どうしてこの剣をまだ持ってる?」
「忘れない為だ、俺の悲劇は王国で始まった。そして両親の記憶は俺と共にこの剣も覚えている」
「……」
「俺を殺すなら殺せ、だが、フィンと住民達は助けて欲しい」
覚悟をしているのか、既にオネストは俯いた状態で話している。
「オネスト!駄目だ!僕が尊敬をしている君を殺させたりはしない!全ては僕が協力したせいだ!」
フィンは喉が張り裂る位に大声で叫んでいる。
街中に声が響き渡る。
「フィン!!」
「オネスト、フィンを見てみろ」
顔を上げ、フィンを見た。
彼にはめられた手錠の内側だけが薄く、そして赤くなっていた。
恐らく必死に抵抗をしたのだろう。
無理に外そうとした為に、手首は既に赤く、そして皮が剥けている。
「フィンの言葉を受け入れろ、あれだけ抵抗
をしているんだ」
「だが……住民はどうなる?」
「私は何も見なかった、フィンが捕えられたのはただの職務怠慢、それだけだ」
「……」
「今は去れ、私の気持ちが変わらぬ間にな」
そして剣を首元から離し、鞘に直した。
オネストもまた、落とした剣を拾い鞘に戻す。
そして、去ろうとするオネストを呼び止めた。
「オネスト……」
「……」
「また、いずれ剣を交える時は、どちらの正義が勝つんだろうな…」
「さぁな…」
振り返りもせずに、夜空を見上げて、ただ言い放った。
その言葉は、何処か嬉しさも感じられるが、同時に切なさも醸し出していた。
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