第8話 初めての戦闘


 オネストはエミリアの華麗なる、そして強力な廻し蹴りから目が覚めた。

あまりに蹴りが強く、しばしの間気を失っていた様だ。


「うぅ…ここは…」


「ここは宿よ、あんたが私のその…見たからよ…!(どうしてこいつオネストはラッキースケベが多いんだ…)」


オネストは腹をさすりながら起きようとした時に、何気なしに窓の外を見た。


「そうか…ん?今は何時だ?」


「何時ってお前…あれからそうだな…8時間ぐらい寝てたぞ?」


「そうか、でもエミリア…見た俺も悪かったが多少は手加減してくれ…冗談抜きで痛かった…(普通は蹴られて8時間も気を失わないだろ!こいつはどんだけきつく蹴ったんだよ!)」


オネストはそう言って顔を歪ませている。


「確かに本気で蹴った私も悪かった」


エミリアは若干俯きつつ謝った、部屋の木製のドアに亀裂が若干入るぐらいオネストを蹴り飛ばしたんだ。


「いや、良いよ…(普通にしてたら可愛いのに…前まで一瞬だけでもエミリアが『彼女』だったら良いかなって思った自分に回し蹴りしたい…)」


「ありがとう…」


ここでオネストは思い出した、これから派兵契約書にあった街に行けなければいけない。


「そう言えば、そろそろ別の街に向かわなと」


「え?そうなのか?」


「あぁ、次の街の方が報酬が多少良いからな」


「そうか…一体どんな街だ?」


「ん?ひとつの街の中に国境が貫く様に引かれた街だよ」


「………」


「どうした?急に黙って?」


「い!いや、何でもない!じゃ、向かうか!」


「??お、おう…(着いてくるのか…また、色々とお金が掛かりそうだな…)」


そして2人は部屋を出ようとした時、オネストは気付いた。


(これは!ドアにヒビが入ってる…待てよ、正直に言えば修理費を取られそうだし…これだけ小さな傷…黙っていても問題は…ないな…)


オネストはヒビを見て見ぬ振りをして部屋を後にした。

出る前に店主に知らせる。


「ありがとうございました」


「いいんだよ!また次もごひいきに頼んますね!」


「はい」


そう言って宿を後にした。


目的の街「オルディネ」に向かう途中エミリアが話始めた。


「その…話があるんだ」


「どうした?」


「その…実は…お前が「復讐」する為に傭兵になったって聞いたんだが…本当なのか?」


「…ただのだろ?…復讐も何も俺は金の為にやっている」


そう答えるオネストの顔は冷たい表情をし、どこと無く遠くを眺めている。


「そうか…」


「あぁ…そうだ」


これ以上ない気まずい雰囲気だ。

だが、その雰囲気を壊す様に林の中から人が現れた。


「おい!」


呼び止められる声に二人とも後ろ振り向く。


「ここから先は”通行料”を払わなきゃいけないんだよ?」


一人の盗賊だ、服装はボロボロで見た目も不潔極まりない。

顔には無精ひげが生え揃っている。

体格はかなりの大柄で、引きちぎられたような袖そして襟からも垣間見える筋肉は隆々、そして腰に携えている剣のつか自体が握っている盗賊の手で伺え知れないぐらいだ。

の体格の人間なら到底かなわないであろう。

エミリアさえ恐怖で足がすくんでしまっている。


「へぇ…取るの?」


オネストは携えている剣の柄を握る。

その表情は今までエミリアが見た事も無いような鬼気迫る表情を浮かべている。

かなりの力が入っているのか、剣を握る腕には血管が浮き出ている。


「貴様…良い度胸して…」



言い終わる前に、オネストは切りかかった。

左足を後ろに引き、そしてその足に力を込めて踏み込み間合いを詰める。

詰めると同時に剣を抜き、握っている右手で切り上げるように。


その瞬間。

盗賊の柄を握っていた手首が跳ね飛び、地面に転がる。

切り口からは鮮血が噴き出ているが、盗賊は何が起きたか瞬時には理解出来ない表情を浮かべている。

そんな表情を浮かべたのも刹那、盗賊は自分に「今」何が起きたのかを理解した。


「ああああぁ!!クソッ!!このガキめ!!」


盗賊はそんな事を言いながら咄嗟に切られていない方の手で失った手首を抑え止血に及ぶがもう遅い。

非情にもオネストの「2回目」の攻撃だ。

オネストの剣が、止血していたもう片方の手を切り落とす。

もうすでに致命傷だ、あまりの流血にもはやこの盗賊の命は長くないであろう。


「ああぁぁぁ!!!」


盗賊は断末魔の叫びをあげるが、オネストは気にも留めない素振りをし、剣を振り払う。そして剣に付いていた盗賊の血を地面に飛ばし、鞘に納める。


「行こうか」


オネストはそうエミリアに話しかけるがエミリア自身、今起きた惨たらしい光景に呆然として返事が出来ない。

あまりの早業だった、エミリアの脳裏に焼き付いているのは鮮血ほとばしる盗賊の苦しむ姿だけだ。


「ほら」


「え!?あぁ、うん…」


オネストはそう言って、半ば強引にエミリアの手を引き歩いて去って行った。






















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