第2話

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「ただいま」

「あんた冷房点けっぱなしだったよ」

 母さんはカレーを作りながら言った。

「ごめん」

「しかも十八度」

「ごめん」

 野球部を辞めさせられてから、今まで二十八度以下にしたことがなかった冷房を、十八度まで下げるようになった。もう肩を守る必要がないからだ。冷房を強烈に効かせてタオルケットにくるまるのは、とても気持ちがいい。もう二十八度の生活には戻れないだろう。

「今日、大塚に会った」

「遊んだの?」

 母さんは野球の試合を見に来たことがない。野球のルールを知らないし、看護士の仕事が忙しい。それでもたまに父母会に顔を出して、大塚のことは知っていた。

「いや、バッセンに来た」

「野球続けてるの?」

「あいつは中学で辞めたよ」

「賢いね」

「本当に賢いよ」

 母さんはカレーを温かい内に食べろと言うと、自分の部屋に帰って行った。僕も自分の部屋に戻った。

 大塚がどう精神分析するかは知らないけれど、僕の部屋は散らかっている。見るたびにげんなりする。明らかに僕のやる気を削いでいる部屋だ。マンガが散乱して、お菓子の袋がゴミ箱から溢れている。

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