第4話 なんとかしてよ!
「ウソでしょ?」
思わず相手は妖怪だということも忘れて詰め寄ってしまう。
「俺って、人の家にふらっと入ってふらっと出てくる妖怪じゃん。そういうめんどくさいの死ぬほど嫌なんだよ。その俺が残るって言ってるの……どれくらいやばいかわかった?」
結果、呆れた顔でそう言い切られてしまった。
「ちょっと、あんた。私の部屋で勝手にお菓子を食べて漫画を読むだけに飽き足らずなんてことしてくれてんのよ」
思わず、チャイナ服の襟もとを掴んで、揺さぶる。
「そんなこと言われても、こうなっちゃったのはしかたないじゃん。服が傷むから辞めて」
「ちょっと待って、これっていつまで? まさか私ずっと妖怪に命を狙われることにはならないわよね?」
揺さぶるのをやめて、ぬらりひょんの顔を覗き込む。
このまま、妖怪に命を狙われ続けるだなんて冗談じゃないわ。
「あっ、それに関してはいいお知らせ。あんた妖怪でもないし、修業を積んだ人間でもないでしょ。だから、俺を倒したことで、俺と同等の力を授かってるだけだから。俺があんたに勝てば、俺を破ったことで得た力はすべてなくなる」
「ということは?」
「ぬらりひょんとして、人間のしずくに俺が勝つ。つまり、しずくが俺のことが見えなくなれば、俺の勝ち。そうすれば俺に勝ったことで得た力はすべて無くなるから普通の人間にもどれるってわけ! 俺相手の勝負だと、まぁ、俺を見ることができるかできないかだから、人間のあんたは危ない目にも合わない」
勝負といっても、私には特に危ないことが起こらないとわかってホッとした。ならやることは一つだ。
「なるほど! お願い私に勝って!」
「おう、シュカ様に任せとけ」
そう言って、シュカは指をパチンっと鳴らす。
シュカは目の前にいる。あれ、今本当にシュカ術を使ったのかな?
そんなことを考えていると、シュカがひらひらと私の前で手を振る。
「ちょっと、そんな顔の近くて手を振らないでよ」
「うわっ、やっぱり見えてんの?」
「ばっちり!」
「よし、今度はもっと気合い入れるから」
そういってシュカはまた指をパチンっと鳴らす。
やっぱり、シュカは私の前から消えない。
「私が目を開けてシュカのことを見ているから駄目なのかも……」
そう言って目を閉じてみる。
パチンっという音が聞こえて目を開けるとやっぱり目の前にはシュカがいた。
「あのさ……俺見えてる?」
気まずい顔でそう言われる。
「残念ながら……」
「あーーーーーやっぱり。俺の名前が読めるっていうことはやっぱりあんたのほうが俺より格上になってる。今の俺じゃ何度やってもあんたに勝てない。どうしよう無理だわ」
えへって可愛い顔で首をコテンと傾げられたけれど、はいそうですかとはならない。だって私このままだと他の妖怪に命を狙われちゃうんだもん。
「ウソでしょ!? ほら、ちょっとゲームみたいにレベル上げてきて再度挑戦してみてよ」
「それができないんだって、さっきも言ったでしょ。俺は人さまの家を渡り歩くことで力を得ていくんだけど。しずくの傍から離れたら、いろんな妖怪の餌食になるかもだけど……離れてもいい?」
「駄目に決まってるでしょ」
「デスヨネ。あーしょうがない。名を結ぶか」
「名を結ぶ?」
「まぁ、契約みたいなもの。このままじゃ、半径5m以内から俺がでたらすぐ他の妖怪の餌食になる可能性がある。契約すれば離れていても大丈夫な範囲が増えるし、何かと便利らしい」
「便利らしいってザックリしすぎでしょ」
「だって、名をやることなんてそうそうないんだよ。ほら、紙とペンを出して」
シュカはそういって早くよこせと言わんばかりに手を出してきた。
いつも使っている筆記用具とお手紙交換に使おうと思っていたお花柄の可愛い紙が2枚でいいかな。
「よし、道具はそろったね。次はその紙に名前を書く、フルネームだかんね」
私が紙に名前を書くと、シュカも手早くもう一枚の紙にオムライスの時と同じ不思議な文字を書いた。
「それで、どうするの?」
「あーっとたしか、『二つに折りて紙を咥え、相手に真名を渡す』」
紙に書いた名前が見えないように二つ折りにして、口に咥えた。
シュカが目を閉じて、手で三角形を作る。
そのとたん、部屋の電気が消えて真っ暗闇になる。
暗闇にぼあっと浮かび上がるシュカはなんちゃってチャイナ服ではなく袴姿だった。
ナニコレ……言いたいこと聞きたいことがあるけれど、なんとなく口を開いてはいけない気がして、紙を咥えたまま今から起こることを見つめた。
ぶつぶつぶつぶつと、シュカが何かを唱える。
その時だ。
異変が起きた。
シュカが咥えている紙から、赤色の光のような線がするすると抜け出していく。それと同時に、私が咥えている紙からも、金色の淡い光の線がするすると抜け出していく。
私の紙から線が抜け出してきて気がついた。
この光の線は、私が先ほど紙に書いた私の名前だと。
しゅるしゅると線は伸び、赤と金が絡まり、私のほうにやってくる。
光の糸がシュルシュルと一気に。
ナニコレナニコレ!? と思っていると
「そのまま口をあけて名を飲め」
シュカがそういったのだ。
「ひょっと……どうひゃっ……」
口に紙を咥えたままで私は変な話し方になったけれど、口を動かしたことによってわかる。
今、
ゴクリっと私の喉がなったと同時に。
元の私の部屋に戻った。
「少々無理矢理だったけど、これでよし」
シュカはそういって、先ほど口に咥えていた紙を広げて私のほうに見せると、そこには字など何もなかった。
私も口から紙を取り出してみてみると、そこには『高橋 しずく』の文字はなかった。
「文字が消えている……」
「あんたが名を飲んだのさ。とにかく無事終了! 俺にしっかり感謝してよね。こんなこと昨今やったことある妖怪いないと思う……よ……マジ…で…………」
そういうとそのまま、シュカは後ろに倒れるといびきをかいて寝始めた。
ウソでしょこいつ、このままここで寝るつもり?
とりあえず、私は髪を乾かしてから電気を消して寝た。
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