第9話  流浪のひと ~ 長編


いちばん 大切なこと ・・・は   ! そうだったんだ




常夏の海【シマ】。 



波が 光 輝き、 眩しく 踊っている。

。。。まる で  一面には  透き通った 


エメラルドの様な  絨毯。




まだ 人間の 知らない、この土地には

ひっそりと 生活している人魚たちがい る。



地球のどこかの、 片隅、 平和に 包まれた、 名もなき 場所。









人魚が暮らす 所は  深い 海底にあった。


大きな岩を 削って 造られ、 人間には

けして 目立たない様に なっている。



仄暗い 背景が 蒼さを 秘めながらも、色の 目立たない

珊瑚が ただ ゆっくりと 気泡を 出している。


イソギンチャクで 身を 隠す、白 模様と

オレンジ混ざりのカクレクマノミ。



戯れ合う人魚 たち。



一見、 何の不自由もなく 、こんな 幸せそうな 

恵まれた、環境【せかい】でさ え


仲間 外れという者は  かならず、 一人 は

いるものだろう か。


群れの中で いっぴ、き だけ、 離れている 人魚がいた。






『 背中には 大きな 傷があるんだっ て 』



[ いつも  なにしてんだろう ね ] ?




廻りでは、 チラ観を されながら

ひそひそと 言われている、 一人の女。



も、う 何度も 同じことを 囁かれてきた。




良い方に 考えるように すれ ば


噂を 受けるだけ マシなのだろう が

それでも  やはり、 噂というもの は  良くも、 悪くも


気持ちのいいことではな い。



女は  一刻も 早く  海の上に 出たかった。






ゴツゴツとした、座り心地の 悪い  人知れずの 岩。


女にとっては  なぜ か  落ち着ける 場所。

そこでは  いつも  人魚らしく 歌を うたう。



観客 は   岩に 弾け、 泡となる、 波の音。

時に 勢いよく  跳ねる、 たった 一匹の 魚・・ ・



女は 孤独という時間に すっかり 慣れているつもりでい。。。た


そ、う  あの瞬間まで は。




これから 現実で  起きようとしている、できごとに 遭うまで

女は 自分の孤独の慣れの甘さを しらないでいるのだった。  







♪ 月夜を 待つ  波のような 流れの身

 静かな 時間【とき】を 過ごす


私は やがて  儚く  散る 事だろう



風の 強まりに  哀しさで 瞳を  潤す

孤独という名の 下 に  生きて



LA LA  LA。。 。

流浪のlullaby【ララバイ】。






女が 哀愁を 歌っていると 夕暮れ が だんだんと 迫る。

もうすぐ、 女の待ちに待った、月が 昇る事【ころ】だろう。






茜色に 染まる、 巨大な 積乱雲。

近々、 雨が 降るらしい。


何の躊躇【タメライ】い も、遠慮もなく 堂々と していて

積乱雲 は  女を 観下げた。




人魚には、 自然と 話を する  能力がある。



『 おまえ 、独りでは、 泣くことも  できないだろ う 』



予定通りの  大雨 は  女の悔し 涙のように 降り注いだ。

そして、 閃光が  観下げられた 女の怒りを 表しているかのようだ。



「 背中に 傷さえ  なけれ ・・・ば 」






そんな  何日 か、  経った、あるひのこと。


今まで で、 いちばん きれいな 満月の 日 に

いきなり、 海が 激しく ゆらぎ


どんどん、 眩しさが 増して 光始めた。




月が  女に  問う。


≪ ひとつだ・・・け


願いが 叶うとした ら?  どうしたい? ・・・ ≫



気のせいかもしれない と  感じつつも

声・・・?のような ものが  きこえてきたから


女は 半信半疑で いつか、聴いた事のあった

人間という種族 に なってみたいと 答えてきた。



月は 疑問に ・・・想っ た

そんな者に  なりたいのか と。





≪ 陸に 上が ・・・れ ≫



女が 月に 言われた通り、陸へ 上がると

みるみるうちに尾びれが きえて


脚という存在が 姿を みせた。




、なるほ・・・ど  これが  人間。。。






関心に 浸った あと、 自分の全体【からだ】を

眺め、 納得し


再び 、 女が  海へ  身を 深く 沈める。



[!?]

っ”。




身体が ・・・重;い

呼吸が できない。




≪ それが  にんげん だ ≫




人間は 最初からは  泳げない 生き物。



到頭【とうとう、】 海にまで 嫌われた。 


・・・そ、う、 感じた。



人魚として 生まれ、すっかり 井の中の蛙。 



女が 人間を 知らないの は  無理もない。

彼女も  また 噂を 信じていた中の一人に すぎなかった。




『 自分が  良さそうに 想えた 事が


こんなにも、 こんなに・・・も

過酷な 現実に なろうと は  』




経験して 初めて知る、人間という生き物の

できること、できないこと。






女は  仕方なく 、陸へ と 戻る。



、月 は  かんがえていた。

女にとっての  生きる在り方 ・・・を。




あれ・・・は   何だ ?

灰色で ものすごく 長い。


ヘンな 緑色の物も 付いている。



女が  間近で 観る、初めての木。 

あれは  あ、あいう物なのだと 月が 言う。



尾びれが ないため、 少し 寒い らしい。

海底と 似た、 岩に 大きな穴が 空いている所を みつけた。



洞窟という名前で 人間の最初の 住む基準となった物でもある。 

女の知らない事を 月は 何でも 知っていた。




遠くから 視える、 今までは  居た 海。 


人間になって 、まだ たったの、数分しか 経っていないのに

海原【こきょう】を  懐かしく感じた。






あのまま 流浪 者の人魚の方が ・・・良かったの か。


それと も?


いまごろ  噂好きの奴ら、 どうしてい る?



普段は 逃げたいと 感じる事を ふぃに 想う。


海原と 陸を 挟む、 境では 様子さえも

伺えない。




・・・もし

このまま 人間と して 生きたいなら それも良 し。


、だが 人魚に 戻りたいなら 今から 言う、 課題を 越え ろ

それだけ 、 女に 言い残すと 月は 去った。



夜が 明け、 陽が 昇る  番なのだ。






ここよりも、  遙か 遠い島の人魚だった、私は

珍しく 通った、人間たちの船を 覗きに行っては いけないと


廻りから 言われていたのに 興味本位から 船の中の 様子を

観に行って  みつかってしまい、 逃げる最中に 背中を 切られた。


命が 助かった瞬間の事は  はっきりとは  記憶にない。




波へ 打ち上げられ 助けてくれた者 ・・・は

私を 【サン】と 呼んでい た。





月から出された  課題 は

現実【ほんとう】の記憶を 取り戻す 事。



人魚に 戻るためには  それが  条件。



「 どうして・・・? 記憶を 取り戻す必要が あるの? 」








人間になって すでに、 1日 目が 経とうとしていた。

私が 洞窟と 呼ばれる 所で 眠ろうとしていると



突然


何者かに 起こされた。




[ !!!; イ / ] っ”


何を 言いたいのかが ・・・分からない。



今度は 別の何者かが 来て、 ようやく 言葉が 通じた。



[ 人間よ、 ここで 何を している? ]



[ !]



[ 儂は この者たちの  長、カカオフ と 申す ]



[ ・・・私は 人間じゃない の ]






長 、カカオフ に  私は

これまでの いきさつを  ・・・話す。




[ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ]



[ でも、 強い生き物と 謂われている

人間 に  折角、 なれたのだから


人魚に 戻るかは  まだ 迷ってい・・・て ]




[ それは ちと 違う。。。


確かに、人間は !強い。 じゃ が

人間にも 色々と  お、って な? ]



長、カカオフ は  人間が 必ずしも、強いとは

限らないと  私に 話し 始めた。








・・・一度だけ、人間 に

飼われたことがある のじゃが


彼らは ものすごく 縄張り意識が ・・・強く

儂らの様に 長もおり、その中には 弱い者もおる。



病気に 罹りやすい者、 ケガを 負いやすい者。

知恵の疎い者。 絶対  強いとまでは  言え ぬ  ]



長、カカオフの話に 私は 少し がっかりする。

人間が 絶対的な 存在なのだと 潜在意識の中では


・・・残っているからだ。






[ 大事なことは  おまえさんが

どちらかで 生きたいの か という感情【きもち】 じゃ



もし、人間として、最後まで 生きたいなら

この島 では 勧められ ん。 儂らにだって縄張りが あるし  



それに、 人間の暮らす

世界の方が 生活には  適しておる ぞ? ]




[ 人間の世界・・・  ]





あたまを 何かが 過り、 急に 呆然とする。




『 この世で 人間が  一番 !! !強いんだ よ 』!っ


切られる瞬間の 事【ことば】 が

背中の古傷を 痛くさせる。



あたまを 反射 的に 抱え、 痛む 背中を 丸めて

急に うずくまる。



、だが

一瞬の記憶は  私に 少し しか 映さない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



まっくらな 視界となり、だれかが  私?を 呼ぶ?




[ かの、 まえさん!! ! ] っ


気が付くと 私は 洞窟で 眠っている。






海賊 ? 船・・・




それ以外 は  無理に 想い出そうと すると

頭が  ・・・ま;た。



さっきまで の 背中の傷の痛みも、 嘘のように きえた。



[ いきなり 倒れたから  驚いたぞ、、、]



[ ぇ? ]。。 。






長、 カカオフ 達の事を 獣族【けもの ぞく】と いった。

縄張りという ものを 持ち、集団で


生活している、サルの一種なのだそうだ。



・・・サル?



カカオフ を 飼っていた人間【もの】が 名づけたらしい。


人間 の世界に ・・・行け ば

私、 変われる かな



も、っと 強くなりたい の。






砂浜。



『 ザンザ 』ン と 繰り返し 、打ち寄せる 波。。 。

挟んだ、 向こう側 には  なにもない。



何も ないけど 、前と違っ て 簡単に  戻れない場所?



人間に とっての海は  凶器に 変わることが あるの ね。


何を 想ったのか、 私は  また

海の中へ 身を 沈めた。





「!” 」っ



ヘンな 味” っ

おいしくな;い。



当たり前に できていたことが 出来なくなってしまう瞬間の

信じられなさが  私を  そ、うさ、せる。


「っ”!。」



溺れそうになっても、何度も 試してみて 諦めを 憶えた。






浜 に  戻り、 ・・・次は 想い切り  砂の上を 走った。

人間になったから 泳げなくなったけど


両脚【あし】という物が できた。



長い 長い、 1日 が ・・・終わりを  やっと 告げる

また 陽が沈み、 月との 時間が 来ようとしている。




「っ。」!




何が 起きたのか、 理解もできず  私は 砂に 叩きつけられた。


「・・・痛;」




人魚のときには  こんな 事なん て。



片手で たまたま 掴んだ 、砂を 握り潰すよう に

力を 込め、 廻りに 投げた。



散らばる、砂が 浮いて 私にも 降りかかる。





また、海へ 潜ろうとして 頭から 沈める。


『 ! 』



ほ・・・っ げほ


っ”



結果なんて 解っていた。。 。


” 人魚だったくせ に  海も 泳げな い ”


・・・だれかに 言われているような気がし て。


転んだばかりの生傷は 海水で ぬれたせい か

私に 重い心と 一緒に のしかかる様に ひどく 痛む。



!! !強くなったん だ

私は  もう 人間なんだか ・・・ら


漆黒に 染められた中で 月が 顔を 出し始める。





・・・今日の月 は  、三日月。



暗い 影【ベール】 を 纏いながら

月は 女を 観る。




女の答えは  今夜も 聴けない ・・・よう だ。





月が どうし て、 女を 人間にした か。








彼女は  遺伝性の人魚で あるが、

・・・じつは 生まれる前 にも、


人間 としての生を 受けるか、人魚としての生を

受けるか 迷っていた。




人魚は 月が 新月の日に 生まれる。



そうし、て  最期 は  満月の日に 光の中、死にゆく。

三日月の日には、 月が 影を 落とし、 半月と なり


また 満月となる。



彼女を 人間にした日、 一人の人魚が 死した。

その人魚は 長で  人魚の長が 死すとき


長の誕生日と 同じ 者の 願いを 自分の死と ひきかえに

月へと 託し、 聴き入れ、静かに 天へと 召す。


これが 人魚の世界の掟 である。






彼女 の 誕生の月は  人魚の長、サラエド と 同じ で

そのことを 流れ者の彼女は 未だに 知らないでいる。


背中に 大きな 傷を 持っていた ため

廻りから 差別を され、 彼女には だれも 掟の事を


話したがらず、長の誕生日さえ 教えたがらなかったのだ。



人魚にとっての 背中の傷 ・・・は

掟の拒否を 意味する。


・・・それに

掟を 伝えられるのは  年齢 も 決まっている。



人間の年齢で 言えば、25歳という所だろう ・・・か


彼女が 掟を 知る事となるには、当時は まだ 早すぎて

この村で 流れ着いてからの話であった。



しか し

サラエドは 「 彼女の持つ 背中の傷 には 掟の拒否などない 」と

一度は 言っており、彼女に


掟を 話す 様に 廻りを 説得した。






『 !! ! 危険すぎます  』



「 掟を 拒否 する印に 自らが 入れる傷が あるということは


近づいた者には 命は ない という意味ですよ・・・? 」



[ 彼女は まだ 若い、 逃げるのは 我々を


警戒しているだけでは ないか? ]




『 でも 流れ者の 人魚なん・・・て


こちらの方が 恐いです よ 』



輪を 乱す事を 嫌う者、 自分たちとは違う 観た目に 対して

警戒心を 抱く者。 噂だけを 信じる者。


皆、何だかんだと 理由をつけ、 彼女を 集団から 追い出した。


中には、住むことも、良く 想わず

彼女が 孤独 になるように 仕向けた。










ふ・・・と


月は 一日の終わりの中で 女が

軽いケガを していた事に きづいた。



砂浜を 駆けていて。 まだ 使い慣れていない両脚で

バランスを 崩してしまったのだろう。



自分が 生まれ育った環境から、離れるという事 は

現実【ほんとう】の 孤独が 来る。






女にとって 悪口を 言われていた海原は ある意味、花だった。

、しかし だれも 知り人が いない事ほど 孤独なものはないのだ。



人魚に 還れば 、安全地帯で いずれ、誤解も解け

平和に 暮らせよう。



だが、人間の姿で 生きようとすれば、 それだけの覚悟が要よう。



井の中の蛙でしかない、彼女にとって その生と死を

・・・分かっているのだろう か。


冒険任せだけの 計画性のない、場所で 暮らすという事 は

飛んで火に入る、夏の虫としか、言いようがない。



人間は 争いの時に 有害な 物質を 武器と する。


彼女は その事実【こと】さえも

知らないで 強く なりたいと、


あこがれのまま 人間に なったというのに

月としては、 人間のまま 生かすのは  反対だ。





月は 女に 考える時間を  与えただけだ。

彼女は  洞窟で 獣族【けものぞく】に 運よく会い、


記憶も 戻れば、自分というものを 取り戻し

生まれ故郷へと 目指して、慣れ親しんだ 世界へと 帰っていく。



月が 人魚たちを 創ったのだか ら。

子供の様な 存在という 形に 自然となるもの。




彼女の記憶が 月の力も  通し、 戻る 乞。。 。

半月の日、再び 同じ 質問をする。




≪ 人魚として 生きるか、 人間のまま  生きるか


選択【こたえ】  を  決断 せよ ≫










〖 大事なことは  おまえさんが どちらかで 生きたいの か


という感情【きもち】 じゃ 〗




獣族の長、 カカオフが 彼女に 放った言葉【きおく】が

蘇り始め、ゆっくりと 彼女を 考えさせる。








[ ・・・私は



人間のまま 生きてみる ]





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



月は 女が告げた、 選択を 承諾すると

突如、雲に 覆われていった。



、もう、 何とかして あげられなくなる 彼女に。









女の前で また当然のように 月が 現れることが あっても

二度としゃべることは  ・・・なかった。




月は 女が 出した、 答えに けして 、怒っているのではなく

ゆっくりと 受け止め 普通の人間たちと


同じように 接していた。



ただ、 かつては、 人魚だった彼女の 元気が 無い日には

月を 観れば、光を 優しく 放ち、癒したという。




その後の彼女の詳細【ゆくえ】は  判って おらず



、もしかした ・・・ら

私たち 人間の中には 彼女の子孫が いるのかもしれない。



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