二人の縁を結ぶのは思い出の籠った道具の数々

近頃のカクヨムではやたら強いジャンルであるところのラブコメ。いずれも面白くて、こうした人気作を読むたびに「クラスメートの女子からもっと絡まれたいだけの人生だった……」と思ったりするのですが、本作もそんな感じの一作です。

ただ本作で特徴的なのがヒロインである篠原水希の絡み方で、たとえば腕時計、たとえばスニーカーといった具合に彼女はやたらと主人公である高槻悠太の持ち物に目をつけて絡んでくるのです。

社長令嬢からすれば下々の民が身に着けるものなどさぞ珍しいのだろう……と思いきや、実際悠太の持ち物は最近の若者にしては少々古臭いセンスのものだったりします。それもそのはず、悠太が身に着けているのは父親から譲り受けたものだから。

この90年代に流行したノスタルジックなアイテムに秘められた父親とのエピソードが胸にグッと迫ると同時に、悠太がどういう人間なのかを表現することにも繋がってくるわけです。そしてそんな悠太の持ち物に難癖をつけつつも自分も同じものを欲しがる水希ちゃんが大変可愛い!

また二人の関係だけでなく、映画好きの引きこもりな妹のエピソードを挟むなど、ダダ甘なだけでなくちょっぴりビターな話を交えて、読者を飽きさせない緩急のついた内容になっているのもお見事です!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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