2話 その時計どこで売っているの?

「そんなダサい時計初めて見た」


 学校一の美少女、篠原水希しのはらみずきは事も無げにそう言ってのけた。


(こいつってこんなキツイ性格だったのか?)


 他のクラスメイトと喋っているときはいつもほがらかに笑って柔和にゅうわな言葉遣いをしているのに、俺と話すときはこうも態度が違うものなのか。まあ、底辺高校生の俺への扱いとしては順当じゅんとうかもしれない。


「よくそんなダサい時計を付けてきたわね」


 篠原は周りには聞こえないくらいの声量で俺に言う。言っていることは散々だが、美しいアルトの声は俺の耳をくすぐった。


「ダサくて悪かったな。これでも気に入っているんだ。防水で、衝撃に強くて壊れにくい」


 俺は黒いウレタン素材の自分の時計を見つめる。確かに前時代的時代遅れなデザインなのは認める。なにせ80年代に発売された時計なのだ。父から譲りうけたそれはもう15年以上使っているという話だったけれど、未だに壊れずに時を刻んでいる。ウレタンは加水分解かすいぶんかいするので、バンドとベゼルは交換してあるけれど、中身はそのままだ。


 四角い液晶の文字盤を覆うガラスは傷だらけで、それはそれで味があると自分では思っている。新品に買い換えるつもりはない。


 確かに社長令嬢からしてみれば、とんでもない安物に違いない。実際、7千円も出せば、新品が手に入るのだ。


「それで?」


「ん?」


「その時計はどこで売っているの?」


「は?」

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