第42話

 目を開けると不気味な森の中にいた。明かりがない分、真っ暗で何も見えない。上を見上げると蝙蝠が羽ばたいて満月が赤く輝いている。このシチュエーション、まるでドラキュラでもでてきそうな雰囲気だ。

 いつもと違う夢の雰囲気に戸惑いを隠せないが、ここに立っててもどうにもならなそうなので、適当に散策してみることにした。同じような風景に方向感覚が狂ってどこへ向かっているのか分かりやしなかった。しばらく歩いていると木がない開けた場所へ着いた。ここだけ木が密集していない分、明るかった。

 「夢の中で会うのは初めてだよね? 月山君」

 頭の中へ直接語り掛けるように声が聞こえた。正面に蝙蝠の群れが集まり、人の形をし始めると、それは蝶野さんへと姿を変えた。彼女はいつもの笑顔を向けながら近づいてきた。ただ今日に限っては彼女の笑顔がすごく歪に感じた。

 「何で蝶野さんもこれができるの?」

 「思い出したんですよ。昔、私もおなじような夢を見てたんです」

 「えっ?」

 彼女の言葉に一瞬、思考が停止した。つまり蝶野さんも俺と同じだった?

 「本当に何をやっても上手くいかなくて、人生絶望して生きるのが辛くなった時に夢を見たんだ。私と同じくらいの頭に包帯を巻いた男の子が川の近くにいて、彼の隣に座ったら口が勝手に開いて愚痴を吐き出していた」

 彼女は哀愁を含んだ笑みを浮かべた。表情を見られるのが恥ずかしいのか正面にいる俺へ顔を隠すように体を動かした。俺は彼女の言葉を黙って待っていた。

 「彼はただ黙って話を聞いてくれた。全部吐き出したら彼が優しく頭を撫でてくれたの。それが夢なのに温かくて嬉しくて涙が止まらなかった」

 すると彼女の頬から涙が伝って顔を濡らし始めた。俺の方を勢いよく見ると待ち望んでいたかのような嬉しさを爆発させた表情で俺に抱き着いてきた。勢いが良すぎて思わずよろめいてしまう。

 「私が何で君に執着してしまうのか……やっと分かった。ずっと会いたかったよ……私のヒーロー君」

 「俺が……蝶野さんの?」

 全く意味が分からなかった。蝶野さんと昔、夢の中で会っている? いや、あり得ない。俺が夢を見始めたのは高校生になってからだ。そんなの……ありえない!

 気づいたら彼女を突き飛ばしていた。何故だか彼女は嬉しそうに、ゆっくりと立ち上がって正面に立った。

 「まあ、無理もないですね。私、調べたんですけど、月山君一回頭を怪我されて入院されてますねよ? 夢の中の彼も頭を怪我していましたし、時期も被るんです」

 彼女が小指を突き出すと赤い糸が浮かび上がって俺の小指へ絡みついていた。取り外そうとするが、靄のように実体がないため、掴むことができない。

 「無駄ですよ~。私とあなたは運命のぉ……赤い糸で結ばれてるんですからぁ♡」

 彼女が手を引くと不思議な引力で引っ張られる。抵抗しようにも踏ん張れない。このままじゃ……。

 「だ、だめです!」

 「うおぉっ!?」

 急に衝撃が走ったかと思ったら、視界が空になっていた。それに腹のあたりがもぞもぞしていてくすぐったい。何が起こったか見ると、見覚えのある人物が抱き着いていた。

 「お前もいたのか……ゆな」

 「寝落ちしてたらいつの間にかこんなところにいたんですー。えへへっ」

 間抜けに笑うゆなをみて内心ほっとした。こんな調子なら現実世界でも危害は加えられていないだろうしな。

 「ちっ! 離れてください! 月山君は私の物なんだからっ!」

 イラつきを隠そうともせずに、ゆなに敵意をむける蝶野さん。急な豹変っぷりに俺は固まっていたが、ゆなは違った。

 「それは違いますよ」

 まだ固まっている俺と蝶野さんの間にゆなが立ちはだかる。いつもと違ってたくましくみえるのは夢の中だからだろうか?

 お互いに視殺戦を繰り広げていると、二人の間で紫の電撃がバチバチと火花を散らし始めた。

 そう見えてるわけではなく、ガチで。


あとがき おいおい! おかしな展開になってきたぞぉ?

 

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