第38話
希が病院送りになった次の日、どこから漏れたのかクラスの話題は希のことで溢れかえっていた。登校した俺は早速質問攻めにあっていた。正直なところ答えられることもないし、逆に真実を知りたい気分だった。いい加減イラついてきたところで周りのクラスメイトと俺の間に意外な奴が割って入った。
「君たち、僕の親友が困ってるじゃないか! ほら、解散解散!」
手をパンパン叩くと群がっていたクラスメイトは自分たちの持ち場へと戻っていった。さすがクラスの人気者こと日比谷太陽だな。俺の方に向くと太陽のように眩しい笑顔を振りまいてきた。
「助かった。流石に辟易してた」
「礼には及ばないよ。ただ、本当に感謝してるなら、三日後の合コン人が足りないから埋め合わせ来てくれるかな?」
「バリバリ俺に恩を売る気かよ。てか、彼女持ちを合コンに誘うな」
俺のツッコミに少し安心したような顔で見つめていた。
「意外と元気そうだね。少し安心した」
「そんなことねーわ。こう見えても憔悴して飯も食えてねーわ」
俺の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべて「嘘つくなよ」と俺の言葉を否定した。
「君、目がギラギラしてるよ。誰かに復讐でもする気?」
日比谷が目を見つめると、そんなことを言った。正直、ドキッとしてしまった俺は視線を逸らした。まだ確定したわけじゃないが、希を突き飛ばした犯人がいるんだとしたら、俺は犯人を殺すか良くて親でも分からないぐらいボコボコにしてしまうかもしれない。
「まあ、僕には関係ないか。今日、金原さんのお見舞い行っていいかい?」
「構わないけど、変なことするなよ?」
俺が睨むとわざとらしく怯えたリアクションをして首を横に振った。
「滅相も無い。まだ死にたくないからね」
イラつく笑顔を振りまいた後、タイミングよく先生が教室に入ってきてHRが始まった。そんな俺を先生も心配そうに見つめていた。
「月山君どこかなー?」
私は大き目な弁当を持って月山君を探していた。同じクラスではあるけど、目を離すとすぐどこかにいってしまうから、そこらじゅう探しまくっている最中だ。彼を探して十分程度、私は彼を見つけた。ただそこに余計な人物が一名いたけど。
「月影先輩とまだ続いてたんだ……」
フラれたとか自然消滅したとか言われていたけど、そうは見えないくらい仲が良さそうな雰囲気だった。声をかけても良かったけど、二人が何をしているのか気になったので、しばらく尾行してみた。決してストーカー行為じゃない。
二人が向かった先は屋上だった。普段、立ち入り禁止で施錠されているはずだけどどうするのだろうか?私の疑問はすぐに払拭された。開錠が響くと扉が少し鈍い音を立てて開いた。二人はすぐに屋上へと姿を消した。
何故、鍵を持っているのか分からないけど、扉の向こうで二人が何をしているのか知りたかった私は足音と息を殺して扉の前まで移動する。幸運なことに内側から鍵はかけていなかった。ゆっくり音を立てないように扉を開けて覗き見た。
「さて、昼飯どうするかなー?」
「あの……すみません……」
昼休みになりどこで食べるか彷徨っていると、か弱そうな声が後ろから俺を呼び止めた。
「あ……どうした?」
「一緒にお昼どうかなーって?」
弁当箱をぶら下げて声をかけたのは、夢の中で会ったばかりのゆなだった。
「いいぞ。ちょうど静かな場所が欲しかったんだ」
「ありがとうございます! いつもの屋上にいきましょう!」
ぱあっと笑顔を輝かせたゆなは上機嫌で階段を駆け上がっていった。話している間、誰かの視線を感じた気がするが気のせいだろう。もしくは俺のことを物珍しそうに見ている誰かだろうから気にする必要もないだろう。俺はゆなの後を追って屋上へ向かった。
屋上についた俺たちはビニールシートを敷いて座った。昼食を食べるわけでもなくただ座っていた。
「食べないんですか?」
「そっちこそ」
生気を失ったみたいにぼんやりと日向ぼっこしていた。ちょっと肌寒いのが玉に瑕だけど。しばらくぼーっとしていると、ゆなが可愛らしくくしゃみをした。それでぼんやりしていた意識が戻って彼女を見ると寒いのか小さく震えていた。
「そろそろ戻るか?」
「いや、もう少しここにいたいです」
このままいたら風邪を引きそうな気がするが、彼女の意志は思ったよりも固いようでその場で体育座りしていた。心配そうに彼女を見つめていると、予想外の提案を笑顔でしてきた。
「じゃあ、体を密着させて温めあいましょう!」
「おい、彼女持ちだぞ? 俺」
「大丈夫ですよ! 華雪に欲情するならまだしも、私ごときに欲情なんてしませんよねぇ?」
急に挑発して誘ってくる彼女に思わず眉がピクリと吊り上がった。確かに姿と声は先輩だが、中身は全くの別物。それにこの世で一番可愛い彼女を持っている俺としてはどんなことをされようとも裏切るなんて断じてあり得ない。しょうがない。ここはあえて挑発に乗ろう。
「ふん! 当たり前だ。さあ、遠慮なく――ふぁい!?」
胸を張って堂々と宣言して数秒、とてつもなく情けない声を出してしまった。密着させるとはいったが、ハグするとは言っていないぞ?取り乱した心を取り戻そうとするが、懐かしい匂いが俺の心音を高鳴らせ思考を鈍らせた。
花のようないい匂い。先輩の匂いだった。懐かしくて嬉しくて涙が一気に込み上げてきた。
「お前、ハグするって聞いてな……お前」
ゆなの方を見ると涙を流していた。彼女も何で泣いているのか分からないようで、困惑していた。
「あ……れ? ご、ごめんなさい! 何で涙が?」
俺も釣られて涙が一粒ずつ流れ始めた。ゆなに泣いている姿を見られたくなくて覆いかぶさるように、強く抱きしめた。あたふた慌てるように抵抗していた彼女だったが、抵抗を止めてぎゅっと抱きしめ返してきた。
「これって浮気になりませんか?」
「ハグぐらいなら……大丈夫だろ?」
「ちょん切られても責任取れないですけどね」
「想像したくなかった……」
下半身がしゅんとなる感覚と希に対しての罪悪感がありながらも、俺達は離れる事はなかった。だって、寒すぎるのがいけないんだ。
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