第37話
「希……どうしちまったんだよ……」
病院で目を覚まさない希を見て動揺している。帰りが別々だった俺は夕飯の準備をして希を待っていたが、いつになっても来ることはなかった。家に帰っているのかと連絡してみたが、希は帰ってきていなかった。最近ずっとしていた胸騒ぎが一気に増幅した感覚に囚われた俺は意味もなく道を彷徨った。
彷徨って間もなくして希の凶報を先生経由で伝えられることになった。
「命に別条はないらしいが、頭を強く打っていつ目が覚めるか分からないそうだ」
憔悴して病室に座っていると、缶コーヒーを差し出した先生が病室へ入ってきた。缶コーヒーを受け取ると先生が隣へ足を組んで座った。
希の両親も血相を変えて病院へ駆けつけて今は医者の説明を聞いている所だ。
「先生……希は何でこんなことに?」
俺の問いにすぐに答えずコーヒーを一口飲んだ後、深いため息をついた。何か解せないといった表情をしていた。
「私が見つけた時、希は頭から血を出して倒れていた。おそらく階段から落ちた感じだったんだが……」
「何か腑に落ちないって感じですか?」
そうなんだよと先生は首を傾げて難しい顔をした。
「見つけた場所なんだが、普段教師も通ることがない場所でな。何故、希があそこにいたのか分からないんだよ」
確かにそうだ。今日も一緒に帰るはずだったのに、用事ができたと言って別々に行動していた。そして、階段から落ちて倒れていた。つまり考えられるのは希は誰かに呼び出されていた。そしてそいつに――
「突き落とされた?」
「確かにその可能性が高いかもな」
先生からしたらその考えは信じたくないのだろう。顔を嫌そうに歪めて一気にコーヒーを流し込んだ。ただ可能性が高いとはいえ証拠も裏付ける根拠もない。この話は一旦、二人だけの話という事でお開きになった。夜も遅かったので俺は先生に送られて家へ帰った。
床に横たわると眠気が一気に体に回ってきた。そのまま瞳を閉じた。
久しぶりに夢を見る事になった。
「あ……? 何でまた?」
もうここにくることはないと思っていたが、またくることになるとは……。
気配のする方を振り向くと、やはりそこにはゆながいた。何故と質問しようとした矢先、彼女が先に口を開いた。
「ごめんなさい! 私にもよく分からないんですっ!」
上半身を何度も縦に振って謝ってきた。嘘は言ってないってことだけは必死に伝わってきた。ただゆなが思い出したように顔を分かりやすく変化させて両手をパンと叩いた。
「分かりました! エッチしないと出られない部屋みたいにエッチしないと夢からさめな――って痛い痛いです!」
「とりあえず頭のネジを締めるかな」
地味に痛いこめかみぐりぐりの刑をやってやった。夢の中だし体にダメージはないだろう。きっと多分。隙を見て逃げ出したゆなが仕返しに脛を蹴ってきたがか弱くて全然痛くなかった。くだらない絡みを終えるとお互い咳ばらいをして何故この状況になったのか考え始めた。俺の方は全く心当たりがないし、強いて言うなら希のことで精神不安定になった俺が無意識に作り上げてしまった空間なのかというところだ。ただ、何故ゆながいるのかはよくわかっていない。
しかしゆなの方は心当たりがあるみたいで俺の顔を不安そうにチラチラ見ていた。
「あのー……もしかしたらですけど」
ゆっくりと控えめに手を上げたゆなは恐る恐る口を開き始めた。
「昨日からずっと胸騒ぎがするんです。何かとてつもなく悪いことが起こりそうで怖かったんです」
「お前もか? 実は俺も胸騒ぎが止まらないんだ」
偶然なのか必然なのか……こんなことに巻き込まれている時点で偶然なのはありえないわけだが。
「本当に何が起こるんでしょうか……?」
本当にこれから何が起こるのだろうか?不安を吐き出さずに不安で震えているゆなの頭をポンポン撫でた。
今の俺にはそれくらいしかできなかった。
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