第29話
「うぅ……全然寝れなかったな……」
結局二人に妨害されて先生の家に泊まることになったが、ゆなは抱き着いてくるわ先生の寝相が悪すぎて首をホールドされて柔らかい物が当たるわで色々と大変だった。あえてここでは詳しく書かない事にするが。
そんなわけで気持ちよく寝てる二人の顔を見ると怒りが湧いてきてしょうがないので、一先ず顔を洗って気持ちを落ち着かせることにした。蛇口からでた水はいつもより冷たく感じて少しべたついた肌がイライラした気分と共に洗い流されている気がした。
顔を洗い終えタオルで拭いていると、もぞもぞとだるそうにゆっくり起き上がる人がいた。先生がまだ寝ているのを見るとゆなが起き上がったのだろう。目を擦りながら未だに眠たそうな目で俺を見つめると、不思議そうに辺りを見渡し先生の姿を捉えると目を大きく開いて驚いていた。
「ここは……? 何で先生と月山くんが?」
「えっ? 今、月山君って……もしかして先輩なの?」
「それ以外、誰だっていうのよ」
訝しげに変態を見たような冷たい目線、間違いなくいつも見ている先輩だ。喜びのあまり先輩に飛びつこうとするが華麗に避けられた。
そして自分と先生の乱れた(主に寝相で)服と大量の空き缶を見ると何かを察したようにまた俺を見つめて頭を抱えた。
「とうとうハーレムエンドへ物語が進んでしまったのね……」
「何か勘違いしてるけど違うからな?!」
タイミングよく雀がチュンチュンと鳴き声を上げた。
「つまり酒を飲んで乱痴気騒ぎに発展、そしてこのティッシュの山が出来たわけね」
「何度も言うけど全年齢対象は貫くからね?」
ちなみにティッシュの山は最初からある。何なら先生が鼻をかんでいるため、今現在も標高は高くなっている。寝癖が爆発している先生はあぐらをかきながら飲みかけの酒缶を飲み干して、大きく背を伸ばしていた。
「ああ……月山。昨日は久々に楽しめたぞ」
「あんたは少し黙っててくれ」
酒を気付け薬代わりにしている先生は勢いよく立ち上がると洗面台へと向かっていった。……この人いつも出勤前に飲酒してんのか?
しばらくするとシャワーの音と共に鼻歌が聞こえる。その間、何を話していいか分からず、お互い気まずい空気になる。ゆなのことや先輩のこと、色々と聞きたいがなかなか言葉として発することができない。そんな俺を見かねたのか俺の隣へ座りこんだ。
「何か……聞くことはないの?」
女性から先に言わせてしまうのは男として情けないとは思うが、こんなナイスパスをもらったからには逃すわけにはいかない。
「元気……だった?」
「最初の一声がそれってどうなの?」
お互いにきごちない笑いが起こる。今まで散々話していたはずなのに、とても緊張してしまう。
シャワーの音が無駄にうるさく感じた。今にも逃げ出したい気持ちで体がはち切れそうだった。ただそんなチキンな俺を先輩は優しい目で待ってくれていた。俺も男だ。このまま黙っているわけにはいかない。
「先輩、いなくならないよね?」
「……」
「これからもずっと会えるよね?」
「……」
「何で……何も言わないんだよ?」
時が止まったように先輩は瞬きもしないで、俺だけをずっと優しい眼差しで見ていた。この光景はただ俺に焦燥感を与えるだけで、体がわなわな震え始める。もう気が狂ってしまいそうだった。今すぐこの場所から逃げようとするが、それは先輩のせいで失敗に終わった。
「月山君、今日は学校サボっちゃいましょうか?」
何を言っているのか最初は分からなかった。想定していない言葉に俺はその場に硬直していた。
「そいつは聞き捨てならない言葉だな?」
タイミングを見計らって出てきたであろう先生が黒色のジャージで湯気を立たせながら出てきた。
「1日サボったぐらいバチは当たらないと思いますよ? 私、普段から真面目ですから?」
先生にあっかんべーをすると俺の腕に絡みついた。それを呆れたような表情で見ているが、何故か口角だけは嬉しそうに上がっていた。
「全く……これだからガキは嫌いだ」
そんな言葉を言っているが、言葉とは裏腹にものすごく嬉しそうに俺たちの顔を見ている。
「ったく、私の気持ちが揺らがない内に行け。ガキを正しい道に導くのが、先生っつーもんだが、青春は誰にも奪う事はできねーんだよ……今のは独り言だ。気にするな」
ぼりぼり頭を掻いて帰れとジェスチャーで俺達に促した。
「先生、ありがと。さあ、いこ?」
「えっ……ええ? ちょっと?」
俺は促されるまま先生の家を後にした。
あとがき やっぱり物語をつくるのは難しいですな。
「」
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