第26話
私は昔からひとりぼっちだった。両親は共働きだったし、人間の友達はいなかった。学校には行かなかった。楽しくなかったし、勉強だって家でできるし、何より両親が何も言ってこなかったから。
そんな両親はゲームやらおもちゃやら何でも買い与えてくれたけど、退屈と孤独感は消え去ることはなかった。
子供の私はそんな閉鎖的な空間にずっといれるはずもなく、いつの間にか外に出て公園へと足が赴いていた。見たことがない遊具や風景の数々にいつの間にか罪悪感はなくなり、湧き上がる好奇心が私の体を動かしていた。
しかしすぐに問題に直面した。生まれてこの方、架空の友達しかいない私は現実の友達がいなかった。その上、家族以外の人と話したこともない私は元気よく遊んでいる子供達に話しかける勇気がなかった。そんな私が初めて遊んだのは砂遊びだった。お城を作ってみたかったけど、作り方がわからなかったから山を作った。夕方になるまで遊ぶと親にバレないように証拠隠滅して何食わぬ顔で家で遊んでいるふりをしていた。
そんな日々を続けていたら私に話しかけてきた男の子がいた。
「俺も一緒に遊んでもいいかな……?」
それが月山陽彩だった。まあ、その名前を知ったのはかなり後にだけど、これが彼との初めての会話だった。
そこから彼と短い会話を繰り返しては砂遊びをする日々が続いた。今思えば彼で退屈に仕方なかったのだろう。彼は私に他の遊具での遊び方を教えてくれた。ブランコや滑り台にジャングルジム、楽しかったけど怖かったから一人でやることはなかった。そこそこ楽しい日々を過ごしていた私だったが、突然その日々は終わりを告げられた。
父親の転勤で引っ越すことになってしまった。真っ先に浮かんだのは彼だったが、別に寂しさのような類の感情は湧きおこることはなかった。強いていうならまだ退屈な日々が始まってしまうという悲しみが沸き上がった。
別に伝える必要はない気がしたけど、一応遊んでくれた恩もあったからまだ名前を知らなかった彼にそのことを伝えた。私が言い終えると彼は予想通りの反応をしてくれた。それもそうだ、夕方だけ遊んだ名前も知らない人からそういわれてもその程度の反応になるだろう。
別れの挨拶を済ませたところで、後は帰るだけだけど彼から予想外の提案をしてきた。
「隣町の神社にいってみないか?」
唐突に言い出したことに思わず首をかしげた。すかさず疑問を投げてみると、そこの神社は願い事をすると、叶う手前になると夢でその風景が見えるとか見えないとか。
私は軽く悩んだ。親にバレれば怒られてしまうが、初犯だし今日くらいは大丈夫だと考えた。この日、私は初めていい子をやめて、名前も知らない男の子と小さな旅にでた。何だかんだいってウキウキしている私がいて、彼は私よりも子供っぽくはしゃいでいた。
何事もなく小さな旅は終わった。賽銭を投げて願い事をした。オカルトは信じていない方だったので、叶いそうにない夢を神様に要求しといた。馬鹿にされそうだったので、彼には嘘をついておいた。
さて後は帰るだけ。親からの説教タイムが待っているとなると家に帰りたくなかったが、そういうわけにもいかない。お腹も空いているし、汗もかいたしで背に腹は代えられないから。
若干憂鬱な気分になって、注意力散漫になっていたのがいけなかった。急で路面が悪い下りの階段で足を滑らせてしまった。ああ……やばい。何故かこの時の私はひどく冷静で怖さはなかった。怪我してもしかしたら血がいっぱい出て……ああ、お母さんにめちゃくちゃ怒られるんだろうな……。
落ちていく体に身をゆだねていると私の体は前方へと突き飛ばされた。何が起こったのか分からなかった。
擦りむいた膝を庇いながら下っていく階段を見ると……彼が倒れていた。
この時のことを私はよく覚えていない。彼に駆け寄ると額から血が出てて顔が真っ赤になっていた。はっきり覚えていたのは触って手についたあのべったりした血の感触で、パニックになった私はその場から逃げ出してしまった。
彼を殺してしまったと勘違いした私は泣きながら家に帰った。手に血をつけた普通じゃない光景に母は顔を真っ青にしながら事情を聞いた。そして聞き終えると私を思いっきり殴った。この時人生で初めて人に殴られた。
私は程なくして引っ越した。中学生になると不登校気味だった私も学校に行き始めた。別に行く気はなかったが今の時代、高校ぐらいは卒業しないとロクな職につけないとどっちにも言われたので、渋々といったところだけど……。
不安だった学校生活だけど、最初は皆受け入れてくれた。友達もそれなりにできて不安も杞憂に終わると思っていた……。
「月影さん? 私の代わりに掃除やってよ」
同じクラスメイトでガラが悪かった女子に目をつけられてしまった。よく掃除をサボったりして、大人しい人をイジメたりなんて悪名が高い人だった。
「ちょっと? 無視するのは違くない?」
「ごめん。私も忙しいからできないよ」
「は? あのさぁ……分かんないなら教えてあげるけど、ここだと私の命令はぜーったいなんだけど!……やれよ。痛い目見る?」
「本当に今日はできないんだ。ごめんね」
「てめぇ!」
私の態度が気にくわなかったのか、その場から去ろうとした私の髪の毛を引っ張って壁に叩きつけた。平手打ちの一つを覚悟した私の目の前で彼女はポケットからだしたのは、カッターナイフだった。流石に肝を冷やして必死に抵抗するが、非力な私が彼女からの束縛から逃れるはずなく、無力な私を見て醜悪な笑みを浮かべる。
「逆らった罰に親でも分からない顔にしてやるよっ!」
冷たい刃物が頬に触れる。刃物が肉に食い込む直前だった……。
「私が助けてあげようか?」
「!? だ、誰?」
直接、脳に響くように声が聞こえた。声の主を探そうと首を動かすが、どこにも見当たらない。そして不思議なことにこの場の時間が止まっているように見えた。その根拠にカッターナイフを突きつけて笑っている彼女が瞬きどころか眉一つ動かしていないのだから。
「私は私だよ。ゆなのことはずっと見てたよ。ゆなは優しすぎ、そんな奴やっつけちゃえばいいんだよ」
「ダメだよ……人は傷つけちゃいけないんだよ」
「そんなこと言ってたら顔に傷が残っちゃうよ? 顔の傷は女の価値を下げちゃうし、ゆなにそうなって欲しくない」
そういうと意識が遠のく。私じゃない何かが体を支配しようとするのが分かった。
「何するの……? やめて……」
「大丈夫。起きた時には終わってるから、ちょっとの間、夢でも見てて」
抵抗虚しく意識が闇に落ちる。
しかし次に意識が戻った時、眼前にある光景を見て戦慄した。
あとがき
上手い感じに短く綺麗にまとめようとしたけどダメでした……。
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