第20話

両親に連れられ向かったのは、少し高そうな焼肉店で希とは現地での集合だった。両親の姿を見ると子供のように目を輝かせて近づいた。

 「おじさんおばさん久しぶりです!今日はありがとうございます!」

 希は運動着のようなラフな格好できていた。普段おしゃれな希ばかりだから何だか新鮮で見つめてしまった。俺の視線に気づいた希は少し恥ずかしそうに目線を逸らした。ここまでは感動の再会そのものなんだけども、希が先輩の存在に気づくと楽し気な空気は一瞬で壊された。

 まあ、ここからはご想像の通りでひと悶着あったが、何とか収めて楽しく焼き肉を楽しむことにした。

 「う、うまい!久々の肉で感動です!」

 「希ちゃんダイエットでもしてたのかい? 心配しなくても育ち盛りなんだから心配すんな!」

 「そんなことないですよ!油断してたらすぐ太ってちゃって大変なんですよ!」

 そういいながら肉よりもタレの絡んだ白米を掻きこむ希。太る理由が分かる気がするが、ツッコまない方がいいだろう。一応先輩にも余計なことを言わないように目配せするが、あちらはあちらで肉に夢中のようで喧嘩の心配はなさそうだった。

 しばらく肉を堪能し、デザートタイムになったところでトークの内容は希になった。

 「そういえば希ちゃん。陽彩とはどんな感じだ?」

 唐突に父がデリカシー皆無な質問をぶつける。とりあえず俺と母で脛に蹴りをぶち込んでおいた。

 「ファッ!? 急に何を言い出すんですか?!」

 「希。今すぐ警察に連絡してもいいぞ」

 セクハラ発言をそのままスルーしようとした俺達だが、アイスを食べ終わったあの人が動き出した。

 「お父様、ご心配なさらず。陽彩君の傍には私がいるので」

 「先輩っ?!」

 話が違うよ先輩。なんでこんな終盤にしかけるの先輩。思いっきり挑発の眼差しを希に向けていると、顔を真っ赤にしながら上半身を乗り出してきた。

 「ちょっと!何勝手に言ってるの! 頭おかしいんじゃないの?」

 「あなたより遙かに頭はいいわよ? それに彼だってまんざらでもなさそうだし」

 「ちょっと先輩この辺で……はう!?」

 向かい側に座っている先輩の生足が際どいところを触ってくる。あまり触られると勃ちあがるけど、立ち上がれなくなってしまう。

 「ひーくん? 何を鼻の下のばしてるのかなぁー?」

 「ひぃ!? もう少し加減してくれない?」

 隣に座っている希が何かを察して睨みつけるなり俺の太ももを力いっぱい抓った。何とか勃ちあがる心配はなくなったが、肉が取れるんじゃないかと思うくらい痛い。

 「陽彩君、こんな事あるごとに暴力を振るう将来考えてない脳みそ空っぽ女よりも、私のところでヒモ男として夫という名の奴隷契約を結んだ方がいいと思うけど?」

 「何いってんのよ!大体つい最近まで赤の他人だったくせに、おじさん達に取り込んであなたは一体何がしたいのよ?」

 「ちょっと!二人ともここまで!」

 二人の小競り合いは何度か見たから見慣れてはいるが、両親の前なのでさすがに止めた。

 「まあ……なんだ、とりあえずモテモテだな陽彩!」

 「陽彩……日本ではハーレムは作っちゃいけないのよ」

 「何か誤解してるみたいだけど違うからな?!」

 前も言ったけどこの物語は絶対にハーレムエンドにはならないからな!


                  △


 焼き肉店を後にすると、俺は先輩を送るために希達と別行動することにした。変な空気になってしまったが、二人とも満足そうだったし、終わり良ければすべて良しということにしとこうと、自分の中で納得させた。

 食後の運動がてら寄り道しながら帰路についていた。歩いていると本来なら行くことがない歩道橋が視界に入り、せっかくだから上ることにした。

 「うわぁ……意外と高いんだな」

 「4.5メートルはあるらしいわよ」

 「落ちたら死ぬな。これ」

 下を覗くと信号機が触れれそうなところにある。高所恐怖症というわけじゃないが、何だか足がすくんでしまう。

 「あの、今日はありがとう。他の人と食事するなんて久々だからはしゃいでしまったわ」

 「終盤ひやひやしたけど、先輩が楽しんでくれたなら良かったよ」

 「少し……ちょっとだけ反省してるとは思う」

 「なんで第三者視点なんですか?」

 それ反省していないと言っているようなものでは?もう疲れたからツッコまないけど。

 「そういえばこの階段すごく急だよな。先輩、気をつけてよ?」

 「あのバカ女じゃないから大丈夫よ」

 「悪口いっちゃいけません」

 先に先輩が恐る恐る階段を下りる。一歩ずつ確実に降りて行って中間地点にいったところで先輩の様子に変化があった。何やらふらついているような回転した独楽が動きを止めるような挙動をしていた。

 様子が変と思うより先に体が動いていた。ヤバいと自分の直感がそう告げていたから。結果的に俺の直感は当たっていた。

 糸の切れた人形のように脱力して前のめりに倒れ始めた。このままでは大けがは免れない。俺は先輩を包むように抱きしめるとそのまま一緒に階段を転げ落ちた。

 「ぐお……痛ってぇ」

 全身に鈍い痛みが走る。すかさず先輩の状態を確認する。腕に少しかすり傷があったが、とりあえず頭は打っていないみたいだった。

 「うぅ……」

 「先輩!大丈夫?!」

 「ここは……?」

 「急に階段から落ちたんだよ!本当に大丈夫?」

 「ひーくん?」

 ボソッと呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。この世でその名で呼ぶ奴は二人だけ。

 「ゆな……なのか?」

 「やった……やっと夢以外で君と……」

 喜んだのは一瞬、すぐに先輩は意識を失った。何がなんだか分からない俺は先輩を担いで走った。

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