第19話

 「んん……あれ?」

 目を開けるといつもの草原に立っていた。ここまで夢の世界に引きずりこまれるとマジで寝た気がしない。とりあえずクレームをいれとくかと目の前にいる少女を睨んだ。

 「そんな怖い顔しないでくださいよ。ひーくんと会えるのはこの世界だけだからしょうがないじゃないですか」

 一体何がしょうがないのだろうか?やっぱり頭もお花畑なんだろうか?空手チョップをかまそうとしたけど、それは空を切るだけで終わった。

 「まあ、いいや。ちょっと質問あるから答えろ」

 「えー……最近、そればっかじゃんひーくん」

 心底残念そうな顔をする雪愛。華雪先輩に似てるせいでいたたまれない気持ちになるからやめて欲しい。

 「どうせ過去にあった女の子について聞きたいんですよね?」

 「ああ、正解」

 「結論から言うと私ですよ。ただ、雪愛であって華雪ではないですけどね」 

 ついこないだまで渋ってたくせにあっさりと自白した雪愛は、けろっとした表情で俺を見つめていた。ただ、雪愛のいった言葉に俺は理解が追い付かなかった。 

 「何でそんな不思議そうな顔してるんです? よーく頭を捻って考えてみてください」

 自分であって自分ではない。雪愛であって華雪ではない。それが意味するのはあまりにも非現実的な答えだった。

 「二重人格……?」

 「ピンポーン!正解!ご褒美のチューです!」

 彼女の攻撃を俺は小さな頭を鷲づかみにして防いだ。必死になってグルグルパンチを当てようとしているが、到底届きそうになさそうだ。

 「それじゃあ……お前は後から出来た人格ってことか?」

 「なーんでそうなるんです? 逆ですよ逆!」

 俺の捻って出した答えはきっぱり否定された。油断していると脛にトウキックを当てられてイラついた。

 「元々の人格が私こと雪愛で、華雪は後から出来た人格なんです」

 「う、嘘つくな!俺の夢にしかでないお前が先輩の人格だって? 誰が信じるんだよ!こんなバカげた話」

 動揺する俺とは反対に彼女はひどく冷静で真剣な眼差しを貫くように放っていた。認めろこれが真実だと告げる目は俺を無性にイラつかせ、今にも襲い掛かりそうだった。それでも少女を痛ぶる趣味はない。とりあえず胸倉を掴んでやろうと近づこうとするが。

 「お……い。何しやがった……」

 「そろそろ時間切れみたいですね。会えなくなるのは残念ですけど……もうすぐその心配もなくなるので、安心してください」

 彼女は嬉しそうに言うと、俺の頭に触れた。意識はそれを最後に暗転した。


                △


 「う~ん……」

 目を覚ますと見慣れた天井、自分の部屋な訳だが、今日は何だか目覚めがいい。花のようなほのかに香るいい匂いで顔が綻ぶ。何故だかこの匂いは俺にとってリラックス効果がある。このままもう少し寝てしまおうとしたが、そんな甘い考えはすぐに阻止された。

 「痛いです。もう少し寝かしてください先輩」

 「ダメ。もうすぐ夕飯の時間だもの」

 「じゃあ頭撫でてくれたら目覚めますよ」

 「調子乗るからダメ」

 つまんでいる頬を強く抓られた。そういえば今日、外食するんだったな。仕方なく起きる事にした。

 「あの……念のために言っとくけど、希と喧嘩しないでよ?」

 「あっちが喧嘩売ってこない限りは大人しくタダ飯を食べるつもりだけど?」

 「何だか不安で仕方ないけど大丈夫か?」

 タイミングよく両親に呼び出されると簡単に準備を済ませる。何だかとても嫌な予感がするのだが、気のせいであって欲しい。

 「あの……おじさん?おばさん?」

 「どうした希ちゃん? 金の心配なんてしなくてもいいんだぞ?」

 「それはありがたいんですけど……ここにいる人は?」

 「金原さんいってなかったかしら?」

 ケロッとした表情の先輩が何故か俺の腕に絡みついてきた。そういえば今日の正座占い最下位だったな俺。

 「今日、家族になっちゃった」

 「な……ななな……」

 「先輩!?!?」

 嫌な予感って何でこうも当たるものだろうか?

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