第18話
あれはいつもの帰り道だった。俺は友達も少なくさっさと家に帰っては宿題を終わらせてゲームする日々を過ぎしていた。だからいつものように学校を後にして帰路に着いていた。帰り道には途中に公園があって普段は園児や小学生が遊んでいる普通の公園なんだけど、いつも通っていて気になっていたことがあった。
それは砂場で一人ポツンと砂の山を作っている同い年くらいの女の子がいた。普段なら一瞬だけ見てそのまま素通りしたんだけど、たまたま宿題も少なかったし話しかけてみる事にしたんだ。
恐る恐る近づいて砂山を作っている彼女に近づいた。やっぱり知らない人に話しかけるというのはえらく勇気が必要で、彼女に話しかけるのは今思えば過去一で緊張した瞬間だったかもしれない。
彼女の背後に近づいては遠ざかりを繰り返して、子供じゃなかったら確実に職質レベルの不審者っぷりだったと思う。それを繰り返して数十分、砂場で遊んでいた彼女が振り向いた。
目線があった俺たちだけど、彼女の方は数秒硬直した後警戒したように後ずさった。やばいと思い俺は咄嗟に口に開いた。
「あ、あのー怪しい者ではないでございますです……だ?」
自分でもびっくりするくらい怪しさ満点の一言を放ってしまった。おかげでますます警戒されてしまった。
これはどうしたものか?何か打開策はないかと彼女をひとまず見てみる。外で毎日遊んでいるにしては白く綺麗な肌、顔は年の割には大人びた凛とした顔立ち、冗談抜きで今まで見てきた女性の中で一番綺麗かもしれない。
十一歳しか生きていない奴が言うセリフじゃない気がするけど、当時そう思いながら彼女に見惚れていた。それに白いシンプルなデザインのワンピースにつやつやな黒髪ロング、外見で見る限り育ちが良さそうにも感じた。
「俺も良ければ一緒に遊んでもいいかな……?」
彼女は警戒しながらも首を縦に振ってまた砂山を作り始めた。
そこからは終始無言で砂山を作った。流れ作業で正直退屈でしょうがなかったけど、自分から言った以上抜け出すことは許されない。
あくびを噛み殺していると彼女は満足したのか手を洗い始め、「帰る」と一言言い残して消えた。
不思議な奴だなと思いながら砂場デートはとりあえず終わりを迎えた。
俺は次の日も彼女の砂山作りを手伝った。あれだけ大きく作ったのにも関わらず次の日にはサラ地に戻っているのが不思議で仕方ない。
「ねえ、いつまで付きまとうの?」
「なんだ迷惑か?」
「いいや、変わった人だと思って」
「前から気になって、どんな人なのかなーって」
彼女は少し眉を動かすと俺の方へ視線を向けた。
「……感想は?」
「正直、まだわからん。数える程しか話してないし」
彼女は首を傾けて「ふーん……そっか」を呟くとまた砂山を作り始めた。
日が沈んでいくと彼女は「帰る」と呟いて帰っていった。そんな日々が一週間過ぎた。彼女は毎日、砂山を作り俺はそれを手伝った。
「はい、これ」
「何これ?」
「コーラだよ」
「これが……?」
「おいしいぞ飲んでみろ」
コーラを手渡すと目を輝かせて受け取った彼女は恐る恐る口をつけた。
「おいしい」
「飲んだ事なかったのかよ?」
「飲んだら歯が溶けるからダメだって言われてた」
「こんな迷信今どき信じるやついるんだな……」
「今日から好物にする」
「お、おう。気に入ってもらえてなによりだよ」
過去最高に目が輝いてるな。コーラを奢っただけでここまで喜ばれるとは。
ここを境に彼女は俺と会話するようになって、砂遊び以外にもかけっこやかくれんぼもするようになった。たまに彼女に餌付けするとこれまた面白い反応をしてくれるので、ついついお菓子を買っては彼女に与えてしまっていた。
なんだかんだ楽しかった日々が過ぎて一か月たった時、突然お別れはやってきた。
「え?引っ越すのか?」
「うん。明日の夜に」
「そ、そうか。寂しくなるな」
「全然、そう思ってなさそう」
実際、そこまで寂しくはなかった。明日から暇になるなー程度の虚無感しか感じなかった。
せっかくだから何か特別な事をしようという話になり、彼女と少し遠い場所にある神社へと散歩することになった。その神社は願い事をすると叶う手前に夢になって叶った姿を見せてくれると昔から言い伝えられている。
他の学生たちの波に逆らって神社を目指した。その間、何も話さずに黙々と歩いていたおかげか予想よりも早く着いた気がした。
廃れて寂れた神社は日が落ちて暗くなり始めた空と合わさって幽霊の一人でも出てきそうな雰囲気だった。
内心ビビッていたので、素早く十円を取り出して賽銭箱めがけて投げて彼女とお参りをした。
「何を願い事したんだ?」
「7年後、素敵な人と出会えますように」
「妙にリアルな願い事だな……」
「そっちは?」
「人生楽して生きれますようにって願った」
「多分、叶わない」
「うるせぇよ……え?」
短くやり取りした後、彼女と帰路に着こうと歩を進めようとしたその時、悲劇は起きた。急な勾配の下り坂になっていた場所に彼女は足を滑らした。
ヤバい!そう思った俺は彼女を突き飛ばして転げ落ちることを防いだが……。
「うお!やべぇ!」
気づいた時には遅く、俺はそのまま転がり落ちてしまった。揺れる視界に全身を駆け巡る激痛、俺の記憶はそれを最後にこと切れた。
次に目が覚めると病院にいて、両親が涙汲んで俺を見つめていた。あの後、たまたま通りかかった通行人によって病院へと連れていったらしい。
俺は両親に彼女のことを聞いて見たけど、あの場所には彼女の姿はなかったそうだ。
検査入院の後、彼女を探したけど見つかるはずもなく今日に至った。
「……ってな感じなんだけど」
「ほんこわと世にも奇妙な物語の悪いところを足したエピソードだったわね」
「そこまで言われるとガチで傷つくんだけど!」
だから言ったじゃないか、期待するような話じゃないって。
「家帰るの面倒だから、寝かせてもらうわ」
「そうですね。まだまだ時間ありますし、俺も仮眠取ります」
先輩はベットに横たわると秒で寝てしまった。それにつられて俺も眠気マックスになったので、隅っこでクッションを枕がわりにして横たわった。
一瞬で意識は遠退き、夢へと誘われた。
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