第17話
夏休みも終盤に差し掛かり、数日すれば学校というある日。俺は珍しく両親に顔を合わせた。こう書いてしまうと仲悪いとか思われがちだけど、そういうわけではなく両親がどちらも共働きで顔を合わせるタイミングがないと言うだけで、朝早く起きた俺はソファでまったりしている両親と鉢合わせた。
「おお、陽彩。朝早いなんて珍しいな!」
「おはよう。朝食いまから作るね」
「大丈夫……。朝、食パン2枚だけだから」
目をこすりながら母を制して座らせた。俺は食パンにピーナッツバターを塗って大きく頬張った。両親が朝二人でテレビを見ているのはいつぶりだろうか?ブラックコーヒーを啜りながらその光景を眺めていた。
しばらく無言でパンを食べていると、父が何かを思い出したように顔をこちらに向けてきた。
「そういえば希ちゃん元気か?しばらく会ってないから会いたいな~」
「相変わらず元気だよ」
ここ近辺の事は言わない方がいいだろう。話がこじれそうだし。
「そうか!きっと美人になってるんだろうなー。ところで付き合ったのかお前ら」
「ブーッ!!げほっ!げほっ!急に何言ってんだよ!?」
思わずブラックコーヒーを盛大に吹いてしまった。優雅な朝にしようと思ったのに、起床してから間もなくしてその均衡は崩れた。その様子を見ていた父はがはは!大きく笑って「図星かこの野郎!」と指をさしていた。
「付き合ってねーよ!息子の恋愛事情に絡んでくんな!」
「いいじゃねーか!希ちゃんお前のこと好きだし、どうせ希ちゃん以外女子と話ししたことないだろ?父さんだってママ以外と話ししたことないぞ?」
「あら?おかしいわね?大学生の時、浮気して『もうやらねえから許してくれよお゛お゛お゛』って泣いて謝ったあの時はどう説明つけるのかしら?」
母のただならぬオーラにさっきまで調子に乗っていた父がばつが悪そうにしゅんと縮こまった。基本的に俺の母は優しいのだけど、怒るとどんな相手でも萎縮してしまうほど怖かったりする。元レディース総長だったのはやっぱり本当らしい。
「こほん!そういえば今日はママとの結婚記念日まじかだったな!」
「いや、当日じゃないのかよ」
「細かいことは気にするな!今日は家族全員で外食だ!希ちゃんも呼ぶぞ!」
もう勢いで乗りきろうと必死な父に俺と母は呆れていたけど、あそこまで必死だと追い詰めるのも可哀そうな気もするので、とりあえず乗ることにした。
それはそうと、家族で外食なんて何年ぶりだろうか?中学生の時に回転寿司のチェーン店に行った以来かも知れない。その時はたしか希もいて、ここにいた誰よりも一番食べていた気がする。
懐かしい思い出に耽っていると、父も同じく思い出に耽っているみたいだった。
「そういえばあの日から六年経つのか……」
「?」
「コホン!お父さん」
ボソッと呟いた父の言葉に?マークを浮かべるがそれを見た二人は少し慌てたような顔をして目を逸らしていた。
「ああ……こっちの話だ。夜まで時間あるし、ちょっと寝ようかな」
父が自室に戻ろうとした時に来客を知らせるインターホンが鳴り響いた。こんな朝早くに誰だろうかと思い玄関を開けてみるとそこにいたのはちょっと予想外な人物だった。
「おはよう月山君。暇だから涼しい部屋で読書をしに来たわ」
「げっ!先輩!?」
おっと……これはまずいかもしれないぞ。
「なんだ陽彩、宅配か……ってなんだこの美人さんは!?」
「あらあら、本当に美人さんね」
うん。そうなるよね。華雪先輩に興味津々になっている両親は俺を押しのけて先輩を中へと招き入れた。
△
「いやーまさか陽彩がこんな美人さんとお付き合いしてるなんてな!」
「ただの友達だよ」
「そうです。ただのセ〇レです」
「先輩!?」
俺の両親相手でも遠慮なく下ネタをかます先輩に冷や汗かきまくりなんだけど、両親はがははと笑っていた。
「面白い子ね。陽彩が懐くのも納得だわ」
先輩は紅茶を啜りながら、ロールケーキをつまんでいた。何故こんなに涼しい顔しながらふてぶてしくできるのだろうか。
「ウチのバカ息子は迷惑かけてませんか?いい奴なんですが、こうもひねくれた奴なものなので心配で」
「むしろ助かってますよ。人の為に体を張れるいい人です」
「先輩……」
「優柔不断でヘタレのくせにハーレムエンドに仕向けようとするタイプの主人公だけど、私は好きです」
「両親の前でメタ発言かつ〇ラ〇ルの主人公扱いするのはやめてよ!?」
頬を紅潮させて上目遣いで言った「好き」は明らかに使いどころおかしいし、ハーレムエンドをこの素人小説に組み込んでしまったら、雑味しかない闇鍋の完成だから絶対にならないよ!(ネタバレあえてね)
そんなことはどうでもよくて、さすがの両親もさっきのボケには?マークを浮かべていたので、俺が適当に説明すると二人とも少しずつ笑顔が戻っていった。
「陽彩……お前見ないうちに成長したな」
「そうね。お母さんも感動しちゃった」
「大げさすぎだろ。たかが女友達がきたくらいで涙目になるなよ」
結婚して子供できました的な報告をしたときみたいな感動の仕方をしている二人に呆れつつも認められたみたいで少しは嬉しかった。
「おっと、人様の前で情けない姿を見せてしまったな。華雪さんも一緒に今夜食事でもどうですか?」
「そうよそうよ。希ちゃんも誘ってパーっとやりましょう」
それはまずい気がしなくもないけど、さすがにこの盛り上がっている状況で水を差すようなことは言えないので、大丈夫かなと心配そうに先輩の方をむくと大丈夫と肯定するようにこくんと首を振った。
一通り話がまとまると一旦解散して俺と先輩は自室にこもった。
「先輩、本当にうちの家族と希がセットの食事会いくの?」
「何か不満?それとも二股がばれるのが嫌かしら?」
「いやそうじゃないけど、二人ともバチバチやりあわないでよ?」
「あっちが食い下がらない限りは大丈夫よ」
「まあ、それならいいけど」
後で希には事情は説明しておこう。会話が途切れると彼女は本来の目的である読書に没頭し始めた。邪魔するのもあれなので物と同化したように大人しくしていた。
しばらく黙っていると彼女は本を読み終えて俺の部屋を物色し始めた。まあ、やましいものなんてないから、俺は涼しい顔をしながらベットに寝転がっていた。本棚を漁って本をぺらぺらとめくっているけど、期待していた物が出てこないせいか少し不満そうな顔をこちらに向けてきた。
「あなたエロ本の一つでも持ってないの?」
「持ってないですよ。今はスマホもありますしね」
「言われてみればそうね」
引き続き探していると彼女が何か見つけたみたいで座ったままじっと見ていた。
別に断じてやましいものなんて持ってないけど、彼女の様子を見てみると、本の間に挟まっていた一枚の写真を取り出してじっくり見ていた。
「この写真……」
「ああ、これは」
その写真は六年前、俺が小学校5年生の時にとった写真だった。俺が女の子とのツーショットで無愛想な顔でピースしている写真。
「この子は誰なの?」
「友達だよ。公園で独りぼっちで砂遊びしてたから一緒に遊んで意気投合したんだ」
「ふーん?この子とは仲良かったんだ」
「仲良かったっていっても、数回遊んで転校しちゃったんだその子。しかも名前も聞いてなかったからどこにいったかも分からずじまいでそのまま自然消滅だったよ」
頭をボリボリ掻きながら答える。そういえばこの子は何をしているんだろうか?懐かしい気持ちに胸にじーんとしたものが広がった。
「そうなの。じゃあ、暇潰しにその話聞かせてちょうだいよ?」
「ええ?華雪先輩が期待するような話は出てこないよ?」
「いいのよ。今日は陽彩君の話が聞きたいの」
「なんか恥ずかしいな……。じゃあ、その前にコンビニで飲み物買いにいきません?」
自分の過去を話すのは少しばかり恥ずかしくて体の冷却と喉を湿らせたかったので、一旦コンビニで飲み物とお菓子を買うことにした。
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