第16話
屋台デート日比谷ver
「いやーまさか君とデートすることになるなんてね」
「強引に連れ去ったんだろうが」
ツッコミで頭をどついてやろうとしたけど、それは残念ながら空を切った。
「そんで?さっきの取り巻き達はどこいったの?」
「ああ、全員好みじゃなかったから実はゲイなんだってカミングアウトしたら皆逃げていったよ」
「俺への風評被害考えてよ!?」
スマホの画面を見てみると、加工されて美形になった俺の顔に僕のマイハニー最高♡と書いてあった。
どうでもいいけど、マイハニーと言っている辺りうけ側なんだな。しばらく歩いているとまた人気のない場所へと連れていかれた。もしかして、本当にそっちの趣味があるのかとくだらないことを考えて身構えていると、日比谷は急に立ち止まった。
「ここらへんかな」
辺りを見渡しながら呟いた。俺の方を見ると肩に手を置いた。
「ここら辺に着物を着た美女がうろついてるって噂になってるらしいぞ」
「それで?」
「悪い男たちに捕まる前に保護した方がいいと思うよ」
「確かにそれもそうだな」
まあ、華雪先輩なら心配ないと思うけど、探したほうがいいな。周りを歩きうろうろしていると、すぐに彼女は見つかった。
「ねえ、綺麗なお姉さん。もしかして、フリーなの?」
「こんなところにいると危ないよ?俺らと楽しいことしようぜ」
おっと、典型的なチンピラに絡まれていた。色黒金髪タンクトップとホスト風の色白イケメンが下心丸出しで華雪先輩に絡んでいた。彼女の方は心底うんざりしてそうな顔をしてあしらっていた。
「あなたたちみたいな人の形をした獣に興味はないの。どっか行ってくれる」
「うひょ~強気な態度いいね!」
「下半身にぐっとくるねー!気に入ったよ」
「反吐がでるわ。ワキガタンクトップに不愉快な香水ぶっかけ雰囲気イケメンが女の一人口説けると思っているのなら今すぐ出直してくることね」
「ちっ!下に出てればいい気になりやがって!」
「数十万する香水を臭いなんてセンスねー女だな?ちょっと痛い目見せてやるよ」
チンピラたちは拳を振り上げた。やばい!そう思った瞬間に体が飛び出していた。
「ぐほぉ!」
「……!月山君!?」
彼女の顔に当たる前に何とか間に合った。だけど、思った以上にチンピラのパンチが強く揺れる視界と共に顔に鈍い痛みが走った。口の中が鉄の味がする。多分、口の中が切れた。
自分の心配なんて二の次で華雪先輩の方を振り向くと、驚きと心配が混じった顔をして俺を見ていた。とりあえず、傷物になるのは防げたみたいだ。
「おいおい、いつからここは〇が如くの世界になったんだ」
「なんだお前!?」
「酔っ払いか?」
「俺のどこ見て酔っ払いに見えたんだよ」ってツッコミ入れたかったけど、俺にそんな余裕はなかった。飛び出したのはいいが、このチンピラたちを退ける術なんて持ってないし、俺がボコボコにされる未来しか見えない。
打開策を考えている暇など与えずにチンピラたちは俺に牙を向けてきた。ガタイのいい二人相手に俺が太刀打ちできるはずもなく、瞬く間にボコボコにされていく。
痛い痛い痛い痛いイタイいたい……。いつの間にか俺の視界が真っ黒になっていった。
花火デート月影華雪ver
「んっ……」
目を開けると青空が広がっている。たしか俺はチンピラにボコられてその後は……全く思い出せなかった。ただ、ここは現実世界じゃない事だけは分かる。
「ひーくん、ホントにバカですね」
どうやら雪愛に膝枕をされているらしい。夢の中でも殴られた痛みを感じるらしく少し体を動かしただけでも痛い。
「何で夢の中にいるんだ?」
「だって、ひーくん寝てるじゃないですか」
「袋叩きにされて気絶しているのも寝てるに該当すんのかよ……」
痛む体を起こそうとするけど、思うように体が動かない。モゾモゾと芋虫のように動いている俺の頭を愛でるように撫でている。
見降ろした顔が気に食わないので、意地でも起き上がってやろうと陸に打ちあがった魚のような無様な姿を見せるが、その無力さを笑うように顔をわしゃわしゃといいようにいじられる。
「おい、そろそろやめないと怒るぞ。あと早く現実に戻せ」
「えーもうちょっとだけ、それに昔を思い出して感傷に浸ってるんで私」
「知らないよ。というか昔ってどういうことだ?」
「昔、私をかばって倒れてパニックだった私は膝枕しかできなくて……」
「……?」
何の話をしているのかさっぱり分からない。懐かしむようにまた優しく頭を撫で始める。問い詰めようと思った時には遅く、まぶたが落ちていった。
「んっ……」
目を開けると暗い空に薄っすらと街灯の明かりが周りを照らしていた。どうやら現実世界に戻れたみたいだ。あれからどれくらい時間が過ぎたのだろうか?あのチンピラたちは?華雪先輩は?意識がはっきりしてくると、疑問が溢れてきて気が気ではなかった。
「気が付いたみたいね」
「先輩……無事だったんですね」
さっきから後頭部が柔らかく温かいと思ったら先輩が膝枕をいていた。さっきまで同じシチュエーションだったから、違和感がなく話しかけられるまで気が付かなかった。
「あの後、どうなったんですか?」
「チンピラたちは見回りしていた私服警官に連行されたわ。その後、放置されちゃってあなたを運んでいくのも無理だったから、ベンチで起きるのを待ってたんだけど」
「あ、何かすみません」
「何で謝るのよ」
不機嫌そうな顔をして頬をツンツンと突かれる。くすぐったいけど、気持ちよくて全身の痛みが和らいだ気がする。
「まだ痛むの?」
「まあ、ボコボコにされましたからね」
「延長料金払えばまだそうしてていいわよ」
「延長お願いします」
「即答でキモい」
今度はジト目で頬をつままれている。確かにキモいかもしれないけど、着物美女の膝枕を堪能できるなら喜んで金を差し出せると思うのは俺だけだろうか。
「冗談よ。心置きなく堪能してくださいな」
「ありがとうございます」
俺は脱力して膝枕を堪能していた。長時間この状態でいる先輩は大変だろうけど、嫌な顔をせず包まれるような優しい顔で俺の頭を撫でていた。気を抜けば寝てしまいそうな幸せな時間、永遠に続いて欲しいとも思えてきた。
そんな静寂と暗闇の中、空がパンッ!という音とともに七色に光り始めた。
「花火大会始まっちゃいましたね」
「そうね」
上空で光り輝く空を見つめていた。花火で照らされた彼女はとても綺麗で花火なんて二の次で彼女を見つめていたなんて、声に出しては言えないけどそれくらいこの時の彼女の表情、仕草は俺を惚れさせるには完璧すぎる物だった。
「いつまで見てんのよ変態」
「こんな顔されたら花火そっちのけで見ちゃうよ」
「割とマジでキモイ」
今度はデコピンを食らった。気持ちい……いや、普通に痛い。
『……くん!ひーくん!!』視界にノイズが走ると共に声が頭の中に響いてきた。不思議な現象に思わず上体が起き上がった。
『どうしよう!どうしよう!?』混乱している俺に追い打ちをかけるように頭の中の声は続いた。頭が痛い。これ以上、思い出せない。ただ、一つだけ確かなことがある。この呼び方、この声……間違いない。
疑問と心配の混じった顔で俺を見つめている彼女を見つめた。
「ゆな……?」
「……?」
「いや、まさかな……ごめん。気にしないで」
「そこまでもったいぶられるとすごく気になるのだけど」
「いや、本当に大丈夫。それよりお腹空かない?何か奢りますよ」
「そうね。皆に合流しなければいけないし、そろそろ行きましょう」
さっき聞こえた声、確かにゆなだった。もしかして、小学生の時……いや、今考えるのは止めよう。何も思い出せない。
むずがゆい疑問を払拭するように俺は彼女との縁日デートを楽しんだ。
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