第14話

 時はかなり飛び文化祭当日の場面へと変わる。文化祭はかなりの盛り上がりを見せていた。

 日頃の鬱憤を晴らすように騒ぐ学生たち、普段入る事が許されない外部者たちと高校の文化祭とは思えないほどの人数が集結していた。それもそうでこの朝日ヶ丘高校は美男美女率が高めでこのチャンスを逃すまいとスカウトマンが目を光らせたり、芸能界系の関係者達が生徒達のバンドやダンスなどを見て品定めしたりとしているためだ。

 もうラノベかよってツッコミたくなる無茶苦茶な設定ではあるけど、それがこの高校の最大の特色なのだからしょうがない。

 まあ、俺はというととある準備の為に着替えをしていた。正直、恥ずかしいことこの上ないけど、華雪先輩の指示なので逆らうことは許されない。

 色々と出歩きたいけど、この衣装のおかげで自由に歩けないため、空き教室で一人スマホをいじりながら待機していた。

 大きく深呼吸をする。今からやることは俺史上最低最悪の黒歴史になるのかもしれない。スマホの時間をみるとそろそろ例の告白大会が開催される時間になっていた。ほとんどの生徒が体育館に向かって人気がなくなったことを確認して俺も体育館へと歩を進めた。


                 △


 「俺とつきあってくださあああああい!!」

 ライトアップされたステージの中央で男子生徒が一世一代の告白をしていた。相手の女生徒は口を手元で覆い硬直していたが、しばらくして瞳をうるうるされて首を縦に何回も振っていた。

 それと同時に体育館が揺れる程の歓声を響き渡った。告白した男子生徒は興奮のあまり上半身裸になっていた。異常なまでの盛り上がりはさらに次の挑戦者が出てきたことによりさらに白熱していった。

 「次の挑戦者は何と!あのイケメン転校生、日比谷太陽ーっっ!!」

 日比谷にスポットライトが当てられると何故か暗闇の中からペンライトの光が浮かび上がった。もはや、ジャ〇ー〇のライブを見ているような感覚だった。

 「えー今話題の日比谷君ですが、誰に愛の告白をするのでしょうか?」

 「同じクラスの金原希さんです」

 またしても歓声が鳴り響く。彼女が登壇し、日比谷の前に立つとピタッと歓声が鳴りやむ。

 「希さん、転校初日からあなたのことが好きでした。俺と付き合ってくれませんか?」

 ぽつぽつと小さな悲鳴が聞こえてくる。早く彼女の答えが聞きたくてざわついてるが、当の本人は日比谷の告白に困惑している様子だった。約一分程、沈黙が続き彼女がゆっくり口を開こうとした時。

 「ちょっと待ったー---!」

 スポットライトがまた一つある場所で照らされる。体育館のちょうど真ん中、月山陽彩は中世の王子様のような白いタキシードに青いジャケットを羽織って現れた。


                 △


 俺が真ん中で突如として現れるとさっきまでの白熱していた会場は観客の困惑した声で溢れかえった。

 まあ、第三者からみれば変な恰好した奴が急に現れた訳だからこういう空気になるのも無理はない気がする。というか一部の人はヤジまで飛ばし始めた。

 恥ずかしくなって顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かるぐらい顔に熱を持ち始めた。そんな今にも逃げ出したい自分を押し殺し深く深呼吸して改めてステージの方を向きなおす。

 「姫。迎えに上がりました」

 俺はステージへと歩き始めた。  


 時は一週間前。〇ックで公開説教をされた日に遡る。華雪先輩が着替えを持って俺の家にずかずかと入り込んできた。

 「え?告白大会に殴りこみだって?」

 「そうよ。名付けてダメ男の寝取られ復讐~墜ちる彼女のつくり方よ」

 「いかにも〇ロ漫画みたいなタイトル止めてよ!?」

 彼女が即興で作った台本らしき紙束をペラペラめくると乱入するまでの段取りに表情や仕草まで細かく書かれた演技の指導まで短時間で書かれたと思えないほど細かく作られていた。

 下ネタにキャラ崩壊と色々な要因で薄れてはいるけど、彼女が改めて天才なのだと再認識した。

 関心していると彼女はペンでおでこをつついてきた。

 「早速、始めるわよ。今日から一週間、睡眠時間は二時間、お風呂とご飯以外は演技の練習だから覚悟しなさい?」

 「その前に華雪先輩、お腹すかない?」

 「時間が惜しいのよ。ゼリー飲料で済ませるわよ」 

 「ピザでもお寿司でも好きなの取るけど……?」

 「やっぱりご飯は普通にしましょう。あと、睡眠も四時間にするわ」

 やっぱりチョロいなこの人。土下座して頼み込めばヤらせてくれそうだよなこの人。実践する勇気はこれっぽっちもないけど。

 そんなわけで鬼演技指導は深夜遅くまで続き今日にいたる。この前のベッドのギシギシ音は華雪先輩の指導に熱が入ってじたばたしてただけだし、あと十個も残っているどうたらこうたらは乱入したセリフのパターンの話だから決していかがわしい会話などではない。

 そして今の状況に至る。寝不足で変なテンションになっているおかげで徐々に緊張は薄れていった。

 ステージに上がると希の前で膝をついて手を差し伸べた。

 「姫……いや、希」

 「こんな変な恰好してなんだけど聞いて欲しいんだ」

 こくりと首を縦にふった。

 「この前はひどいこといってごめん。俺は自分に自信が持てなかったんだ。だから、あんなこといったし、自分に嘘をついてた。でも、今なら言える」

 立ち上がり一呼吸おいて希を見据える。そして、今言いたいことをはっきりと彼女にぶつける。

 「好きだ!世界中の誰よりも好きだ!」

 言ってしまった。語彙力のないクソ恥ずかしいセリフを熱っぽくいってしまった俺自身を殴り倒したくなるけど、気持ちを抑えて希の返事を待った。

 「これはこれは、自分に酔ってそうな彼のセリフ。これは俺も惚れ惚れしてしまいそうだよ。さあ、金原さん君の気持ちを聞かせてくれ!」

 いままで黙って聞いていたくせに変なタイミングで口を挟んだ日比谷。煽るような発言に観客のボルテージも上がってきた。

 「……です」

 「えっ?」

 「ごめん。無理」

 「は?」

 「だから無理」

 「え?ええええええええええええっ!?」

 この出来事のおかげで百年近くあったジンクスを打ち破った伝説の男として永遠にネタ扱いされたことは俺は知らない……知りたくない。

 俺の黒歴史になったことは言うまでもなかった。


                 △


 「はっはっは!あんな大規模な博打を打ってあえなく爆死なんてカ〇ジもびっくりな展開だね。最高だよ陽彩君」

 「今すぐ〇してやりたいんだけどどうしたらいい?」

 あの事件から一週間たったある日。世間一般で夏休みという名の長期休暇を与えられた学生の俺はある人物に呼ばれ近くのカフェに向かった。

 そこにいたのは飄々とした態度で俺に向けて笑顔を振りまいている日比谷の姿があった。そこから先は予想通り奴のすべてにイライラしながら本当に不本意だけど仲良くコーヒーを啜っている。

 「お前、最初からこうなること見越して俺を焚きつけたんだろそうなんだろ!」

 「実はちょっと違うんだけど、これはこれで面白いもの見れたから僕としては大成功だね。ククク……」

 「てめえ、やっぱり今すぐ〇してやる!」

 今すぐぶん殴ってやりたいけど店内で周りに客いるので、日比谷がトイレにいったタイミングで砂糖を大量にコーヒーにいれるくらいしかできなかったけどな。

 「結局、お前の手のひらで踊らされていたわけだな」

 「まあ、僕の中ではこれでも半分失敗だけどね」

 「どこがどう失敗なんだよ?俺を永遠の笑いものにした時点で重罪だばかやろ」

 「まあまあ、これから話していくよ」

 目を伏せると足を組みなおす。絵になるのが腹立つけど大人しく日比谷の話を聞いた。

 「まず僕の目的は君を焚きつけて永遠の笑いものにすることと金原さんと陽彩くんも仲を遠ざけることだった」

 「達成してんじゃねーか!やっぱり〇んどくか?」

 「でも、予想外の事も起きた。それは僕が金原さんにフラれたことだよ」

 日比谷の言葉は一瞬、理解ができなかった。フラれたことのどこが予想外なのか若干頭に血が上っているおれには分からなかった。

 「僕ね。本気で金原さんのこと好きだったんだよ?」

 「へーそうですかい……って、嘘だろ!?」

 あまりにも大きな声をだして店内の視線が俺に向いた。迷惑そうに見ている人たちの視線が痛い。

 「お前、だって俺を陥れるために告ったんじゃないのか?」

 「違うよ~流石の僕でもそんな女泣かせなことするわけないじゃないか 僕に喧嘩売った彼女持ちの奴を口説いたり、ハニトラ使って浮気の証拠使って脅したりとかはしたりしたけど、純粋無垢な女性を傷づける真似できるわけないだろ?」

 「やっぱりこの世に存在してはいけない人間ランキング百位圏内入っているだろお前!」

 なかなかの悪行にドン引きしている俺と盗み聞きしている女性二人組からは侮蔑の眼差しを送られている日比谷は「冗談だよ」とわざと周りに聞こえる声で制した。

 動揺したのか俺の仕込んだコーヒーを啜った。滅茶苦茶甘いコーヒーを平然とした顔で飲んでいると思うと笑いがこみ上げてくる。

 「とにかく。君のせいで彼女にフラれて傷心しているんだよ? だから責任取って僕と友達になってもらうよ」

 「はあ?お断りに決まってんだろ」

 「嫌だね。僕は陽彩君を気に入ったんだ。永遠に付きまとうよ」

 「それじゃあ」といって店内を立ち去る日比谷。色々と不満がありすぎて追う気にもなれないので、残ったコーヒーを一気に飲み干す。

 「っ!?げほっ!げほっ!あ、甘え!」

 あいついつの間にすり替えやがった?!ひりつく喉を抑えて怨嗟の声を呟いた。

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