第12・5話 夢の中にて

 「ランランラーン♪」

 能天気なアホっぽい声で目を覚ました。今日は曇り一つない快晴だった。声の聞こえる方を見ると白ワンピの彼女が陽気にダンスを踊りながら聞いたことがないメロディを口ずさんでいた。

 毎度毎度、夢の中で起こしやがってと思いながら彼女に近づくとムカつくレベルの笑顔をこちらに向けてきた。

 「ひーくん、私とっても嬉しいですよ。やっぱり私を選んでくれたんですよね?」

 「何寝ぼけたこと言ってんの? とうとう本気で頭湧いたの?」

 「ひーくんのツンデレいいですね~!最高に萌えます!」

 もう頭の中がお花畑なのはいつもの事だとして、少女の様子がいつもより異質だった。彼女は俺の周りで機嫌よく踊り始めた。

 「希って女にもフラれ、華雪には呆れられ、ダメ男道まっしぐらのひーくんを救えるのはこの私だけ。 さあ、犬のように私に甘えてもいいんですよ?」

 抱き着こうとした彼女を間一髪で避け、頭に空手チョップをお見舞いしてやった。オーバーリアクションで「痛ったー--!」と額をさすっていたけど、顔はへらへらしていてすっきりするどころかイライラが増しただけだった。

 このままだとストレスで圧死しそうなので、早く夢から覚めるために彼女に関することを聞いてみる事にした。

 「お前、華雪先輩に似てるけど本当に何者なの?」

 「私はお前って名前じゃないですよー」

 「チッ、ゆなは一体何者なんですか?」

 うざさでいうと日比谷、顔負けレベルで髪を掻きむしってしまう。その様子をみて楽しんでいる彼女はさらに嬉しそうな顔をした。

 「そーですね。今日は超機嫌がいいので、一つだけ教えてあげますよ」

 くるくる回りながら俺に近づいて絡みつくと耳元で囁いた。華雪先輩と似た花のようないい匂いが俺を包んだ。

 「私と華雪は一緒なの」

 「は?それってどういう……」

 「ダメでーす。これから先は私の物になるって言わないと言ってあげないよーだ」

 右耳にキスをすると俺の視界がぐらっと揺れた。最後に見えたのは顔を真っ赤にしていたずらな笑みを浮かべていたゆなの姿だった。

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