第8.5話 夢の中にて
今日はいつもの晴れ模様じゃなかった。陽の光は厚い雲に遮られお日様の温かみを感じられない。
そんな天気と同調するように、月影先輩似の白ワンピ少女は不機嫌そうに表情を曇らせていた。
目を開けて立ち上がり振り向くと、少女は女の子座りをしながら花を一枚一枚はがしていた。俺を見るなり恨めしそうな顔で睨みつけた。
「ひーくん、どーして私を選んでくれないの?」
「どーしても何も実在しない幽霊的な存在を彼女にしろなんてイエスって言うわけないでしょうが」
「ひ、酷い! 私はひーくんが作り上げた愛しき存在だというのに!」
地団駄を踏んで悔しそうにする少女。身に覚えないし、迷惑だからさっさと消えて欲しいのだけど。……そういえば、この少女には聞きたいことが山ほどあるんだった。
「なあ、ちょっといいか?」
「んー? 何でしょか?」
「お前って何者なんだ?」
一瞬、少女の笑顔が消えた。何かを考えている難しい顔をした後、またニコニコと清々しい笑顔をむけた。
「何者って……それはひーくんが一番分かってるじゃないですか」
「そうやってはぐらかさないでください。分からないから聞いてるんです」
俺の真剣な眼差しをばつが悪そうにして「困ったな」と小言を呟いた。
「あー分かりました。ギブです」
誠意が伝わったのか、手を横にブンブン振って降参宣言をした。
「じゃあ、一つだけ教えますね」
さっきまで厚い雲に覆われた空に陽ざしがまばらに差し込んできた。
「私の名前は……ゆな。雪の愛ってかいてゆな」
「ゆな……」
少女が名前を明かすと同時に空に雲が消え去った。
少女の恥ずかしく赤らめた表情を隠すように陽ざしが強く差し込んだ。
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