第8話

 「おい!陽彩どういうことだよ!?」

 場面は変わりいきなり教室から始まるわけだけど、あの後大したイベントもなくお泊りデートは終わりを迎えた。

 なのでここからは非モテ男子の日常をお楽しみください。


 いきなり緊迫した声を荒げたモブ男子Aこと秋山は、前のめりになって俺に近づいた。

 「ど、どうしたんだよ?いきなり」

 「どうしたってお前、なんてことしたんだ!」

 両肩をガシッと掴まれ揺さぶられる。俺は?マークで一杯になっていたが、すぐにその疑問は払拭されることになる。

 「あの月影華雪とお泊りしたって……本当なのか?!」

 「あぁ……って、ええ!?」

 教室にいた数名の生徒が一斉にこちらを振り向く。好奇と困惑が混じった視線が突き刺さる。どこから、情報が漏れたのだろうか?

 「それで……どこまでいったんだ?」

 「えっ?」

 「ヤッたのか?」

 「は、はあっ!?何言ってんだお前」

 目が軽くキマッてる秋元の発言のせいで周りの男子たちが一斉に群がる。一方、女性陣はゴミを見るような目で遠目に見ている。完全にとばっちりだ。

 「そんなわけないだろ?月影先輩とはただの友達だよ」

 「お前……嘘つくならもっとマシな嘘つけよ」

 「いや、嘘じゃねえって、本当だって」

 「そんなわけ……お前まさか……」

 急にワナワナ震え始めた秋元は周りをみるなり、恐怖とも悲痛ともとれる顔をし始めていた。

 まあ、なんとなくしょうもない事を言いそうな気がしてならないのだけど。

 「セ〇〇スフレンドってことなのか?そうなのか!?」

 「なわけあるかー!」

 

 ほら、しょうもなかった。


                △ 


 「はぁ~」

 「…………」

 「はぁぁぁ~」

 「…………」

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~」

 「あなたうざいわよ?」

 わざとらしくクソでかため息をつく俺に、苛立ちを露わにする月影先輩。

 構ってほしくてわざとやってるわけだけど、思った以上に敵意……いや殺意が凄すぎてゾッとしてしまう。

 というのも、男子たちの尋問が休憩時間ごとに行われ、珍しくどっと疲れてしまった俺は、原因を作った元凶にストレスの捌け口になってもらおうと図書室へと赴いた。

 「だって、先輩のせいでこうなったんですよ? 愚痴聞くくらいはしてくださいよ」

 ダル絡みとは分かってるんだけど、今日くらいは許してほしい。そんな眼差しで見つめていると、諦めたのか呆れた顔をして殺意を収めた。

 「チッ……悪かったわよ。これでいい?」

 全く気持ちが籠ってない謝罪をした後、ダルそうに嫌な顔をした月影先輩は再び視線を本に戻した。

 この言葉を引き出せただけでも大きな収穫ではあったけど、少し調子に乗ってしまったのかもしれない。俺はさらに火に油を注いだ。

 「それなら誠意ってやつを形で示してほしいなー」

 「あなた……〇されたいの?」

 「ヒッ!?す、すみません!調子乗りました!」

 凄まじい殺気に今にも逃げ出したくなる。やっぱりやらなきゃよかったと後悔する俺は帰り支度を始める。

 「……といいたいところだけど、今回に限っては私にもほんのちょっと責任があると思ってるとも思わないわけだけど」

 「つまり、私は悪くないと言いたいわけですね。そうなんですね」

 パタン!と本を閉じると、俺をまた見据える。

 「本当に不本意だけど、しょうがないわね。あなたの望むこと何でも一つだけ叶えてあげるわ」

 「えっ!?」

 予想だにしない言葉に俺は思わず呆気に取られてしまう。

 『あなたの望むこと何でも一つだけ』頭にその言葉が反芻する。何でもって本当に何でもってことだよな?あんなことやこんなことでも……って、いかんいかん!それ倫理的にアウトだろ!キス以上の描写がかけるわけないだろ!いい加減しろ!

 邪な感情渦巻く表情を不思議そうにみつめている月影先輩。『早くしろ』と目で訴えかけているので、ひねりにひねった俺が出した答えは……。

 「で、デートしませんか?」

 これだった。……間違いなく選択ミスをした。

 やばい。これは確実にキモイ。恋愛経験がない俺でもわかる。

 その証拠に月影先輩は真顔のまま硬直している。これは完全にドン引かれたに違いない。小さく頭を下げ、「すみません。失礼します」と小さく呟きその場を後にしようとした時、「待ちなさい」と俺を制した。

 「いいわよ」

 「えっ?」

 「その願い叶えてあげる」

 衝撃が走った。驚きと歓喜が同時に全身を駆け巡った。人は本当に嬉しさや驚きが隠せないと声が出ないもので、俺は腰を抜かした俺はただ椅子に力なく腰をかけた。

 「ちなみにデート代は全部そっちもちね?」

 「よ、よろこんで……?」

 ウインクをして、指をさした月影先輩は軽く微笑む。

 まあ、デートという名の不平等条約を結ばされていることに気が付いたのは、ほとぼりが冷めた夜中なんだけれども。

 それを差し引いたとしても、俺にとっては大きすぎる収穫だった。

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