第4話
「ひーくん 起きてください夢の中ですよ」
ゆっくり目を開けると、青空が広がっていた。もう、何度見た光景だろうか?気だるげに上体を起こすと、何かが俺の背中に飛びついてきた。
「今日は大胆ですね。どうしたんですか?」
抱き着いてきた顔が見えない夢の少女に不機嫌そうに疑問をぶつける。すると、珍しく少女の方も不機嫌だったのだろうか「むー」とかいううめき声をあげて、俺の背中を抓っていた。
「ひーくん……私という存在がいながら、他の女を作るなんてさいてーですよ」
唐突に身に覚えがない事を言われ、早速?マークで頭が一杯になっている俺だが、少女の方は背中に指でバカとなぞってはブツブツと何かを呟いていた。
「そんな人たらしなところも変わってないし……」
今度は背中にアホってなぞり始めた。結構くすぐったいので、やめて欲しいんだけどそれを察したのか執拗に背中をくすぐり始める。反応したら、負けな気がするからそこは我慢するとしよう。
それはそうと困った。その夢の少女のいう他の女とは一体誰のことだろうか?それを解明しなければ、くすぐり地獄から逃れられない。希はおそらく違うとして、まさか昨日肩がぶつかった隣のクラスの町田さんか……?それか、プリント配りを手伝った佐藤さんか?
……まあ、町田さんも佐藤さんも一言も話したとこないんですけどね。そもそも異性の友達なんて片手で数えれる程しかいないんですけどねっ!
「町田さんも佐藤さんも違うから……ひーくんそもそも話したこともないでしょ?」
「何でどいつもこいつも心読めんだよ」
ったく。月影先輩といい……ん?もしかして、この少女が言ってるのは月影先輩のことか。俺の憶測は正解だったらしく、少女は脱力したように背中へと抱き着いてきた。
「やっと気づきましたね。嬉しいです……それと同時に悲しくもあります」
嬉しさと切なさが混同した声が甘い吐息と混じって至近距離の耳元へと直撃する。耳元が熱を帯びて赤くなっているのが分かった。
そんな急上昇し始めている俺の気持ちとは真逆に少女の方は寂しさを紛らわせるように力強く抱き着いてくる。いつもみたいにドキドキしつつ、そよ風の音を聞きながら沈黙を楽しんだ。そして、そのまま眠りに落ちて夢から覚める。
……がいつものパターンなのだが、今回は何故か眠気が来ない。困惑を察したのか、少女は俺の背中を名残惜しそうに離れた後、少し気まずそうに口を開いた。
「実はお伝えしなければいけない事があります」
少女はいつになく真剣な口調で切り出した。その声音にいつものようなおちゃらけはなく、少女の雰囲気に合わせそよ風がピタリと止まる。
「こっちを見て貰えないでしょうか?陽彩君」
呼びかけに応じるように金縛りが解けてくる。それでも驚きだが、少女があだ名呼び出ないことにも驚く。俺はゆっくりと振り向くと、彼女はそこにいた。
白いワンピースを纏う少女、長い黒髪に人形を彷彿させる小さな顔つき……俺は知ってる。この少女を。
「月影……先輩?」
少女は気まずそうに俯くと、激しめに風が吹き荒れ少女の髪を揺らした。俺が困惑していると少女は髪を掻き揚げながら空を見上げる。
「今日は……雲が綺麗ですね」
「えっ?」
反射的に反応すると視界がガクッと揺れる。力なく倒れ視界が暗くなり始める。意識がぷつりと途切れる前、少女は俺の頬を優しく撫でた。
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