34話 おや、ウルスラさんの様子が……?なのですわ

「はぁぁ~」


 ミッキとフィーは同時にため息をついた。イルマの居なくなっためろでぃたいむにはそこはかとなく寂しい空気が流れていた。


「ほら、メニュー表を整理して。伝票は大丈夫?」


 そんな二人に声をかけたのはセシルである。


「セシル、あんたは大丈夫なの?」

「あたしはめっちゃ寂しいよー!」

「……寂しくない話目ないじゃない、でもここでへましたらイルマが心配するかもしれないじゃない」

「そっか……」


 ミッキとフィーは顔を見合わせて頷いた。それからはセシルがメイド達のリーダーとして采配を振るうようになった。その様子を見てウルスラとリリアンナは話し合った。


「結局なるようになるって事なのかしらね」

「ええ。これからもメンバーの入れ替えはあるでしょうね」

「それじゃそろそろ寮とかをキチンと作らない? 広間をいつまでも練習場にしておくのもちょっとね」

「ええ、そうね。通勤も徒歩だと結構かかりますし」


 そうして街の外れの一軒家を買い取って、新しいメイド寮が作られた。やはりリリアンナのこだわりで、可愛らしい内装に贅沢な全面鏡張りのレッスン室が併設された。


「うわぁ……」

「ねぇねぇ、今度は個室だにゃ」

「僕もこそこそお手入れしなくていい訳だ」


 めろでぃたいむのメンバーは喜んで新しい寮に入寮した。


 めろでぃたいむが平常を取り戻して行く中、りずむめいとは相変わらず賑わっていた。


「このペースだと売り切れが多くなりそうです」


 そうラディに相談されたリリアンナは印刷工場をあらたにモンブロアに作る事を決心した。


「という訳でウルスラさん……」

「やーね、猫なで声で……いいわよ印刷機の増産でしょ!」


 ウルスラは文句を言いながらも錬金釜で印刷機を作り出した。そして従業員も確保して工場は稼働した。


「どんどん変わって行くな」

「ハルト様」

「エドモンドから報告を受けた。今年の税収は三倍以上になりそうだと」

「それはよかったですわ」


 実際、リリアンナの手がけた事業以外にも飲食店や道具屋などが出店してきていた。リリアンナは居間のソファに深く腰掛けながら、満足げである。


「こんなに楽しいとは思いませんでした。私の前世はお金を貯めるので精一杯でしたから」

「俺も、辛い使命の後にこんなに楽しい事が待ってるなんて思わなかったよ」


 二人は仲良くソファに寄り添い、肩を寄せ合った。その唇が自然に近づ……いた時ウルスラがやってきた。


「ちょっと、経費の事で聞きたい事が……あっ」

「あっ」

「あっ」


 思わぬ現場を目撃してしまったウルスラが目をそらした。ハルトはリア充顔でウルスラにもの申した。


「まったくノックしろよ……居候だろ」

「なにその顔! 私がどんだけあんた達に振り回されてると思ってんのよー!」

「そうですわ、ハルト様言い過ぎですわ」

「まったく!」


 ウルスラは衝動的に外に出た。とは言え行くところもない。自然と足はめろでぃたいむに向かった。


「あっ、ウルスラお嬢様にゃ」

「モモ……」


 ウルスラはパフェを注文すると、モモを相手に愚痴り始めた。


「今まで苦労を共にしてきた相棒が、急に色気づいたらどう思う?」

「それはハルト様の事にゃ?」

「ぐっ……そうよ」

「それなら簡単にゃ。ウルスラお嬢様も色気づけばいいにゃ!」


 モモはそう言って無い胸を張った。ウルスラはため息をつく。


「それが出来れば苦労はしないわよ……」

「ウルスラお嬢様は好みのタイプとかないのかにゃ?」

「そうねぇ……、顔はどうでもいいわ。頭の悪い人は嫌い。私の話についてこれるようじゃないとね」

「へぇ……。それならりずむめいとの二号店にいくといいにゃ! あそこは難しい本もあるから頭のいい人もくるにゃ」

「ふーん」


 ウルスラはそう言えばここに来てから本を買い込んでいないな、と思い当たった。


「行ってみようかな……」

「恋は身近なところに潜んでいるものにゃ、がんばるにゃ!」


 モモはそう言って、クリスティーナに分かったような口を利くなとどつかれていた。ウルスラは苦笑しながらそれを見つつ、会計をしてりずむめいと2号店に向かった。


「恋……恋ねぇ……」


 そう呟いて首を振る。


「違う! 私は本を探しに行くだけよ!」


 りずむめいと二号店にたどり着いたウルスラは二階の専門書フロアに行った。


「へぇ、渋い品揃えじゃない」


 ウルスラは感心しながらフロアを巡る。そのうちある一冊が目に入った。


「完全薬草カタログ……これ良いわね」


 ウルスラは手を伸ばしてその本を取ろうとした。しかし小柄な彼女にはその本は大きくてしかも微妙に手の届かない所にあった。


「ぐぬぬぬ……」

「はい、どうぞ」


 その時、ウルスラの頭上から声がして本を取ってくれた。


「あ、ありがとう……」

「その本が気になるなら、これもお勧めですよ」


 その青年は灰がかった金髪に薄い青い眼をして背が高かった。ウルスラの目の届かない所にある本をひょいと取ると手渡してくれた。


「薬草と病の理論……面白そうね」

「治癒師の方ですか?」

「いえ、それは専門じゃないけど何でも知っておきたい性分なの。世間では私を女賢者って呼ぶわ」

「へえ……」


 青年の目がぱっと輝く。それは好奇心の光だった。


「僕はランドルフっていいます。良かったらもっとお話しませんか?」

「え? ええ……いいけど……」


 ウルスラは少し戸惑いながらもランドルフの誘いに頷いたのだった。

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