22話 恋はオンステージなのですわ
リリアンナはしずしずと舞台の中央に立った。お客達の視線が一斉に集まる。
「それでは皆さん、これより定時ライブを行います」
パラパラと拍手が挙がるが、お客はよく分かっていない顔をしている。
「皆様の為に、メイド達が歌と踊りを披露します、それではミュージックスタート」
楽団がイントロのメロディを奏で始める。するとイルマ、セシル、クリスティーナの三人が出てきてポーズをとる。
「1.2.3!」
皆、ウルスラ印の拡声の魔道具……インカムマイクを付けている。配置についた三人は軽快に踊り出した。
「秋も冬も春も夏も~」
「ご主人様のため~に~」
「おもてなしをしますから~」
三人のフォーメーションはばっちりである。三人が歌っているのは『おもてなしの季節』。めいどりあんのサードシングルである。
「いつでもここにきたら~」
「私達がいるーわー」
ミセス・カーターに鍛えられたかわいいを追求したダンス。お客達はその踊りに見惚れていた。
「おかえりなさい、おかえりなさい、おかえりなさいませ~」
三人がラストのポーズを決めてダンスは終了した。客席から拍手が起こる。
「お次は『にゃんにゃん協奏曲』」
次に出てきたのはミッキとフィー、それからモモである。
「ま、間違えちゃうかもしれないけど頑張るので見て欲しいのにゃ」
モモはそう言うと、ぺこりとお辞儀した。
「あなたの猫になりたいにゃー♪」
「にゃ、にゃあ、にゃ、にゃ~」
確かにその踊りはたどたどしくて見ているものはハラハラしていた。けれど笑顔の三人を見てがんばれ、がんばれ、と心の中で応援した。
「時々いたずらもするけーどー、猫だからゆるしてねー」
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ~」
ようやく1曲が終わった。観客達は胸を撫で降ろしながら三人に拍手を送った。
「そして最後は全員で『愛のお給仕1、2、3』です」
メイド全員が立ち並び、今度は一斉にダンスがはじまった。
「「愛のお給仕1,2,3。愛と癒やしを届けます~」」
セシルはもうワンテンポ遅れたりしない。くるくると踊る六人にいつの間にか手拍子が起こっていた。
「あなたのためーにー」
六人がばっちりポーズを決めると割れるような拍手が起こった。
「ありがとうございました。リクエストステージも承っておりますのでご利用ください」
リリアンナはそう言うと、裏に戻った。
「終わりましたわ……」
どっと疲れが押し寄せてくる。
「妖精さん、大丈夫なのにゃ……?」
「ああ、ちょっと気が抜けただけよ、モモ。お客さんの様子はどう?」
「大好評にゃ、さっきからステージと似顔絵のリクエストがいっぱい入ってるにゃ」
「本当、良かった……」
そのステージが評判を呼んだのか、料理が噂になったのか、その日からめろでぃたいむにはちゃんとお客が入るようになった。
「よかった……ハルト様にお礼を言わなければ」
ヴィヴィーの応援だけでは貴族のたまり場になっていたかもしれない。地元の人も来てくれるようになったのは間違いなくハルトのおかげだ。
「ハルト様」
「なんだいリリアンナ」
リリアンナは夜になると、ハルトの部屋の扉を叩いた。迎え入れてくれたハルトは優しく微笑んでいた。
「ハルト様のおかげでお客が入るようになりましたわ……ありがとうございます」
「それは、まあ……夫として当然のことだよ」
「……ありがとうございます」
ここでリリアンナは少し胸が痛んだ。ハルトとは厳密には夫婦と言えるだろうか……。しかし押しつけられた妻である自分からそう言うのははばかられた。
「リリアンナが楽しそうなら俺も楽しいからさ」
「……ハルト様」
「リリアンナ……」
ハルトはちょっと困ったような顔をしてこちらを見てくる。リリアンナはこれまで沢山ハルトに無理を言ってきた事を振り返った。
「小さいときから前世の記憶のせいで私は変わり者扱いでした。ちゃんと話を聞いてくれたのはハルト様、あなただけですわ」
「そう、良かった」
「ですから、私……これでハルト様とは離縁しようと思います」
「えっ?」
ハルトの目が大きく見開かれた。
「ハルト様には感謝しています。こんな形ばかりの夫婦ですのに良くしてくださって……。でもこのままではハルト様は好きな女性と一緒になる事ができません」
「ちょ、ちょっと待って!」
ハルトが掌でリリアンナを遮った。
「……俺の好きな人……?」
「はい、例えばウルスラさんとか……」
リリアンナがそう言うと、ハルトは唐突に笑い出した。
「俺が? ウルスラと? ないない」
「で、でもいずれそういう方が現れるかもしれません」
「だとしたら……」
ハルトはその大きな手でリリアンナの顔を包みこんだ。
「それは……君だよ。リリアンナ」
「私……?」
「ひどいね、勝手に結論を決めて。俺の気持ちはどうでもよかったの?」
「そんな……」
リリアンナの頬が赤く染まる。思わず逃げようとした彼女をハルトは放さなかった。
「……結婚式の誓いのキスを……やり直してもいいかい」
ハルトはリリアンナのサファイヤの瞳を覗き混んでそう言った。リリアンナは、ハルトに身を預けると、小さく答えた。
「……はい」
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