第16話 レベル3

「ったく会いたい時に出て来ないってのは厄介なもんだな」



 ダンジョン探索二日目、コウモリへのリベンジに燃やす白藤先輩が不満をこぼした。

 

 すでにスケルトンたちとの戦闘を三回終えている。

 そのうち一度だけ木製の宝箱が出て『斧』が入っていた。木の柄に何の変哲も無い鉄の斧で初期武器一覧に並んでいるのを確認している。

 熊井君も持つのに苦労したためこれは扱えないということで売却予定。

 初期武器は半額で売れるようなので今日は五千円の収穫だ。これを四人で割って千二百五十円。

 時給としてなら良い方だけどすでに一時間以上は経過しているんだよなぁ。


 ちなみに今日は熊井君が反撃を食らってHPが8ほど減っている。鎧を装備してHPに防御力が加わったおかげで痛みもだいぶ和らいでいるみたい。

 俺もしがみつかれたスケルトンの抵抗でコボルトの足が顔面に当たって3ほど減っていた。こっちはちょっと情けない。

 さらにコボルトが斬りつけられて今いるコボルトは二体目だった。


 何度か曲がり角も経ているし、体力的にもそろそろ戻りたいところだ。



「出会わないならそれはそれでいいんじゃないですかね」


「はぁ!? ダメに決まってんだろ」


「決まってるのかな?」


「ぼ、僕に聞かないで」



 白藤先輩への質問をあえて熊井君に飛び火してみた。

 ちょっと悪いことしちゃったかな。


 雨宮さんは俺が着く前に何やらお仕置きされたようで、戦闘はちゃんと熟してくれるんだけど、今日はあまり会話に入りたくないっぽい。

 


「と言っても俺の持ってきたのってそんな抜群に効くってやつじゃないですし、あくまで足がかりですよ?」


「分かってるよ。ただとりあえずはぶん殴ってやりたいだろ」



 それはあなただけですって。

 学園での一件はすでに無かったように振る舞われている。

 あれだけの腹芸ができる人ならそれぐらい簡単だろうけどね。ただこの性格上、そんなに芸達者にも思えないんだよなぁ。

 おっと詮索はしないって約束したばかりだったか。



「でも次ぐらいでいなかったら今日は帰りましょう」



 目の前にはまた曲がり角があった。

 それで今日はおしまいにするのがちょうど良いぐらいだろう。。

 チュートリアルと違って紙とペンも用意しているので、簡単なマッピングはしているから帰りに迷うこともない。

 大体が無駄な別れ道だったり敵がいるとかで、帰るだけなら行きの半分以下の時間で戻れるはずだ。



「お、ようやくおいでなさったぞ」



 嬉しそうに歯を見せるのはやっぱり先輩。

 そして通路の天井に逆さに張り付いているのはすでに宿敵となりつつあるコウモリ三体だ。

 


「んじゃまぁやりますか」



 俺はポケットから来る前にホームセンターで仕入れた強力な磁石を三つ取り出した。

 一つ八百九十円也。

 ネットの浅ーい知識で検索したところ、超音波を当てる方法や磁力で狂わせる方法などが載っていた。

 

 結局アイテム使ってるじゃんと言うなかれ。

 これなら消費せずに使いまわしできるし、それに一応その先も見据えている

 っていうかすぐに修行してコウモリをはたき落とせるように強くなるとか無理だし。あと先輩のとりあえず殴らせろという欲求を解消しないことにはね。無理難題をおっしゃってくれるよまったく。


 バタバタと羽をばたつかせ滞空する飛行なれどその早さはなかなかのもの。

 今のところ空振り三振続きでこのままじゃあ最下位まっしぐらだ。

 そこに磁石を下から投げつけた。



『キィ!』



 効果は……まぁまぁという感じか。

 いきなりそれで殺虫剤を掛けたゴキブリのように落ちてはこなかったが、飛行はフラフラとしていて酔っているかのようだった。

 


「そりゃ!」



 そこに熊井君の棍棒が襲いかかると必死で逃げようとして羽に当たり、べちゃっと地面に不時着する。

 さらに追い打ちの振り下ろし。

一発でスルメみたいになって即死昇天だ。 


 その間に散らばった磁石を取り集めもう一度放りつける。

 次も効いたようで、今度はコウモリが壁に当たりずるずると落ちてくるところに、ぐしゃっと効果音が出そうな白藤先輩の足刀蹴りが決まった。

 それと同時にスカートがまくれふとももまであらわになる。

 


「良し! リベンジは成功だ! 次!」



 喜んでもらえて何より。

 ちなみに一度家に帰って着替えてくるのが面倒なのか全員制服のままだ。

 女子はスパッツ履いているけど。



「はいはい、すぐ拾います」



 何気に頭の上に敵がいるのに下を向くというのはちょっと怖い行為だ。

 ただもうコウモリぐらいなら攻撃されても痛いで済むと割り切っている。



『キキィ!!』



 もう一度投げようとしたところ、残り一匹は声を出して逃げ出した。

 


「あ、逃げるよ。どうする!?」


「放っておいてもいいんじゃないかな。これで帰るって話だったし深追いしなくても」



 熊井君の指示仰ぎにそう答えてみた。



「中途半端だな」



 先輩は納得がいっていないみたいだが、あれ一体だけのためにこれ以上無駄に進んでもね。

 まぁまだ余力も無くもないけど、もし帰り道にリスポーン再復活でもされたらきつい。



「成果としてはまぁまぁなところです。それとボードを見て下さい。期待通りレベルが上がりました」



 ここでようやくレベルが3に上った。

 特にファンファーレの音がなるわけじゃないのでボードを確認しないといけないのが面倒だが、さすがにそろそろだとは思ってた。これで磁石に頼らなくても済むかもしれない。

 結局、俺が磁石を用意したのもレベルが上がるまでの取っ掛かりのつもりだった。

 地力が無理ならスキルで倒せばいいじゃない。そんな感じだ。



「上げるのは予定通りでいいんだよね?」


「うん、熊井君はそのまま鈍器を上げて。できれば先輩と被りたくないんだけど、先輩には杖でいってもらおうと思う。まぁ杖は俺が被っちゃうけどね」


「僕は刃物よりは鈍器を使ってる方が気は楽だしそっちの方がありがたいかな」



 気持ちはホントよく分かる。

 俺も剣とかじゃなくて杖で良かったと思ってるし。

 大体、切った張ったというのが性に合わない。人がわちゃわちゃしているのを眺めている方が好きだ。だからこそサモナーに選ばれたのかもしれないな。



「白藤先輩は『光魔法』で。回復系の幅が広がるなら生命線になるはずですのでお願いします」


「わーってるよ」



 初日は無視されたが、三日目にして返事は返してくれるようになった。

 すごい進歩だね。



「雨宮さんは……どうする?」



 正直、彼女の場合はこのままコウモリやらスケルトンが多めだと闇魔法を上げても効果が薄そうだしかなり悩みどころだった。

 それなら選択肢の幅が増えそうな『短剣術』や『盗み』などの方が活躍できる場面も大きそうだと俺は思う。

 


「とりあえず短剣術を取って、残り1ポイントは保留でいいですか? ひょっとしたらこの先、闇魔法が効く敵が出てくるかもしれませんし」


「うん、それでいいならOKだよ」



 コボルトの拘束という条件付きながらもすでに彼女は自らの手を使って戦っている。

 だから肉弾戦のスキルを取ることには迷いが無いようだ。ただ魔法への憧れは捨てきれない、そんなところかな。



「さて俺はと……」



 何気に俺が一番迷わない。

 ここは『地属性召喚』一択だ。

 レベルが上ってきっと喚び出せるモンスターが増えるはずで、それにかなり期待している。


 タップが終わり、さてレベルが上がって何が出るかな?


『『地属性召喚Lv2』を取得しました。『マッドドール』が召喚可能になりました』


 ふむ。名前からすると泥人形か。

 イメージ的にはコボルトよりは小回りは効かなさそうな反面、耐久力はありそう。 


『召喚魔法がLv2に達しましたので『アブソーブ吸収』が可能になりました』


 ん、なんだそりゃ。そんなボーナスがあるのか。

 説明を見るとどうも送還した際に喚び出したMPの半分が戻ってくるというやつらしい。

 これはなかなかありがたい。



「僕は『脳天割り』っていうスキルが増えたよ。それと追加で『スタン値増加』も。こっちはスキルじゃないね」


「パッシブ系かな」


「パッシブ?」


「うん、任意に発動するんじゃなくて自動で勝手に常に発動し続けるスキルのこと。今のところは大体一撃で倒せてるけどこの先、もっと耐久力のあるやつがいると効果を発揮するかもね」


「そうなんだね。あと棍棒がすごく手に馴染んできている感じがするよ。二日前に初めて触ったはずなのにずっと持ってたみたいな不思議な感じ」



 なかなか嬉しいお知らせだね。

 熊井君の戦力アップはそのままこのチームの攻撃力アップに繋がる。

 ただどこかで盾術も覚えて欲しいんだよね。先輩は身のこなしで避けているから大丈夫っぽいけど、どうしても彼が最も怪我しやすいから。

 そもそもガーディアンなんだし攻撃よりは防御主体なのでどこかでそっちも視野に入れないといけない。

 


「俺は『毒回復ポイズンキュア』だな。それと『光の盾ライトシールド』っていう光属性軽減だそうだ。つまんねー」



 毒回復はけっこう重要な気がする。

 この人のことだからたぶん攻撃魔法を覚えたかったに違いない。


 光の盾は物理とかじゃないのか。光属性って普通天使とかがやってくるイメージだけど、それって絶対序盤で出て来ないやつだよね。死にスキルじゃ……。



「わ、私は逆に『毒斬りポイズンスラッシュ』でした。結局、スケルトンにはあまり効かなさそうな感じです……」


「あぁまぁそこは仕方ないよ。でもナイフの扱いは上手になったんじゃない?」


「そこはかとなくは……」



 雨宮さんも役に立とうとしてくれているみたいなのは嬉しい。

 ただ今回は空回りしちゃったかもしれないね。


 兎にも角にもステータスはこういう風になった。



・新堂直安

職業:召喚師(サモナー)

レベル:3

HP:45(51)

MP: 9(24)

装備:木の杖(MAG+3)

スキル:地属性召喚Lv2(コボルト、マッドドール) アブソーブ

(残りポイント0)


・熊井健太郎

職業:守護騎士(ガーディアン)

レベル:3

HP:80(96)

MP: 7(10)

装備:棍棒(ATK5)

   革鎧(DEF6)

スキル:苦痛耐性Lv1 鈍器術Lv2(スマッシュ、スタン値増加)

(残りポイント0)


・雨宮雫

職業:盗賊(シーフ)

レベル:3

HP:61(67)

MP:17(21)

装備:良質なナイフ(ATKK3 MP+5)

スキル:闇魔法Lv1(目隠し) 短剣術Lv1(毒斬り)

(残りポイント1)


・白藤琥珀

職業:僧侶(クレリック)

レベル:3

HP:59(63)

MP:17(23)

スキル:光魔法Lv2(回復、毒回復、光の盾)

装備:革のグローブ(ATK3)

(残りポイント0)


 

 ちなみに俺のMPは本当なら7なのだが、時間経過での回復をしていたので今は9だ。

 スキルをLv2に上げるのにポイントが2必要だったということは、おそらくLv3には3必要になるっぽいな。


 ボードを全員が弄って報告し終えたところで前方から足音がやってきた。

 警戒しそれを待つとスケルトン四体にコウモリが一体。

 コウモリはクルクルと回って先導しているように見える。

 ひょっとして仲間を呼んだ、ってやつか。



「ようし、ちゃんと強くなったかどうか試してやろうじゃねぇか!」



 今度ばかりは白藤先輩じゃないけど、みんなも俺も覚えたスキルや強くなった実感を得たくて前のめりに交戦へと突入した。

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